前年度までに、3-5族の金属を内包したM@Si16の集積膜における電気伝導性評価を行い、内包する金属の族と周期に依存して電気特性が変化することを明らかにした。また、作製したM@Si16膜はいずれも非晶質であるため、結晶性を高めることでM@Si16の電子構造がより鋭敏に集合体物性に反映される可能性がある。 そこで本年度は、(i)6族金属を内包したM@Si16の作製と電気特性評価、(ii)M@Si16膜の秩序性向上に向けた検討、の2つの課題に取り組んだ。 (i)では、6族金属であるタングステン(W)を内包したW@Si16を気相合成し、集積膜の電気特性を評価した。W@Si16では5族金属を内包した場合と比較して価電子が増加するため、伝導度が増加すると予想されたが、W@Si16膜はより小さい伝導度を示した。W@Si16は中性状態でヤーン・テラー効果によりケージ構造がひずむことが知られており、対称性の低下が伝導度を下げていると考えられる。ひずみのないW@Si15の集積膜を評価したところ、W@Si16と比較して高い伝導度を示したことから、中性状態での幾何構造が電気伝導性に影響するという知見が得られた。 (ii)では、蒸着中に加熱を行うことでM@Si16の拡散を促進し、結晶性を高められるのではないかと着想した。温度可変蒸着ステージを独自に設計・構築することで、基板温度を制御した蒸着を可能にした。基板温度を変化させて蒸着を行ったところ、M@Si16膜が全体的に酸化されていることを示唆する結果となった。原因として、温度が上昇することでM@Si16が活性になり、真空槽内の残留ガスと反応した可能性が挙げられる。 以上のように、本年度の研究遂行によってM@Si16の電子構造のみでなく幾何構造が集積膜に与える影響を明らかにするとともに、秩序集積化に向けた課題が明らかとなった。
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