研究課題/領域番号 |
19J22154
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 慎吾 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 金クラスター / サイズ制御 / 空気酸化 / 触媒 / ポリビニルピロリドン |
研究実績の概要 |
2019年度はポリビニルピロリドン(PVP)保護金クラスター(Au:PVP)の精密なサイズ制御と触媒性能評価について取り組んだ。 まず、マイクロミキサーを用いたAu:PVP合成について反応条件を検討した。保護高分子を過剰に加えると金クラスターの成長が抑制され、それにより従来の魔法数よりも小さいサイズの魔法数金クラスターが高い純度で得られることをマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析によって明らかにした。また、透過型電子顕微鏡観察(TEM)・粉末X線回折(PXRD)・紫外可視(UV-Vis)吸収分光法によるサイズ評価の結果、粒径約1nmの単分散な金クラスターが得られたことがわかり、この結果は質量分析によって評価された金クラスターのサイズと整合していた。 次にAu:PVPに金錯体と還元剤を加えてより大きいサイズの金クラスターへと成長させるシードグロース法について検討を行なった。反応条件の最適化の結果、期待通りシードグロース法によって原子精度でサイズの揃った金クラスターが段階的に得られることを質量分析によって明らかにした。 原子精度でサイズ制御されたAu:PVPについて、ベンジルアルコールの空気酸化反応をモデル反応としてサイズごとの触媒性能を評価した。まず、金クラスターのサイズごとの触媒的安定性を質量分析によって評価した。反応後のAu:PVPの質量スペクトルを測定した結果、金クラスターがサイズごとに定性的に異なる触媒的安定性を示すことを見出した。さらに、反応条件下で不安定なサイズがより安定なサイズに変換されることも見出し、アルコールの空気酸化反応そのものが金クラスターのサイズ制御に有効であることを明らかにした。サイズごとの触媒活性を定量的に評価するためにモデル反応の詳細な速度論解析を現在行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題について、2019年度は当初の計画以上に進展していると評価した。 2019年度は当初の目標であったポリマー保護金クラスターの原子精度でのサイズ制御をマイクロミキサー合成およびシードグロース法を駆使することで達成した。加えて、触媒反応条件におけるサイズごとの安定性について定性的な差異を見出し、さらにその安定性の違いを利用して前例のない魔法数金クラスターの合成も達成した。ポリマー保護金クラスターのような表面を露出したままの金クラスターについて原子精度でサイズを制御したことは世界に先駆けた成果である。これら2019年度に得られた知見は新規金クラスターの幾何構造と安定性、および触媒性能の相関の確立に向けた足掛かりとなると言える。以上が評価の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
原子精度の精密なサイズ制御に成功したAu:PVPについて、本年度では引き続き空気酸化触媒活性の定量的評価を行い、キャラクタリゼーションの結果と併せて触媒活性に対するサイズ効果の起源について考察する。 これまでの研究から、金クラスターの空気酸化触媒活性において金クラスターの表面負電荷が重要なパラメーターであることが指摘されているため、X線光電子分光(XPS)を用いて各魔法数金クラスターの表面電子状態を評価する。さらに、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)も用いて表面電子状態を評価する。FT-IRでは金クラスターに吸着させた一酸化炭素分子をプローブとして用いる。すなわち、吸着一酸化炭素分子の伸縮振動周波数について、赤方偏移の大きさを金クラスターの電子供与能の指標として用いる。この手法ではXPSよりもサイズごとの電子状態の差が鋭敏に観測されると期待される。これら分光法の結果を用いて空気酸化触媒活性における金クラスターのサイズ効果を考察する。 さらに、本年度ではサイズ制御された金クラスターに対する異種金属のドープ量の精密制御にも取り組む。 金クラスターのサイズ制御と同様に、水素化ホウ素ナトリウムの添加によって生成した吸着水素による還元作用を利用して異種金属イオンを析出させることを試みる。ドープする異種金属元素としては以前に1原子ドープに成功したパラジウムとロジウムが有望であると考えられる。マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法によって金クラスターへの異種金属ドープ量を評価する。また、異種金属原子のドープサイトについては粉末X線回折とX線吸収微細構造解析を用いて構造推定を行う。 触媒性能評価は空気酸化反応や水素化反応を用いて行い、活性・選択性とドープ量との定量的な相関関係を明らかにし、ドープサイトや各元素の電荷状態といった観点から考察を行う。
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