研究課題/領域番号 |
19J22154
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 慎吾 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 金クラスター / ポリビニルピロリドン / 魔法数 / アルコール酸化 / 触媒 |
研究実績の概要 |
前年度においてポリビニルピロリドン(PVP)で保護された新規魔法数金クラスター(Au24およびAu38)の選択合成を達成したため、今年度ではAu24とAu38について構造解析と触媒活性評価を行なった。 Au24とAu38の幾何構造を透過電子顕微鏡(TEM)によって観察した。0.04 秒/枚の高速撮像によってAu24とAu38のTEM像が動的な振る舞いを示すことを見出した。 さらに、Au24についてTEM像の動的振る舞いの起源を理論計算を併用した解析によって検討した。密度汎関数法(DFT)計算による最適化によって7種の異性体を得たのち、マルチスライス法によるTEM像のシミュレーションを行なった。いくつかの粒子の実測のTEM像がシミュレーション像に合致し、相異なる構造異性体に帰属されたことから、試料に含まれるAu24粒子群は幾何構造に不均一性をもつことがわかった。さらに、単粒子の構造変化を追跡することで異なる時点におけるTEM像が別個のモデル構造に帰属されることを見出し、TEM像の時間変化が粒子の回転だけでなく構造異性化によっても引き起こされていることを明らかにした。 Au24とAu38の触媒活性をベンジルアルコールの空気酸化をモデル反応として評価した。0度から30度の温度範囲においてAu38がAu24よりも高い触媒活性を示すことを明らかにした。アレニウスの式に基づく解析の結果、Au24とAu38の間に活性化エネルギーの有意な差は見られず、サイズによる活性差が頻度因子に由来することが見出された。さらに、Au24によるベンジルアルコール酸化について置換基効果と速度論的同位体効果を測定することで、アルコールのアルファ炭素からAu24へのヒドリド転移がアルコール酸化の律速段階であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度においてポリビニルピロリドン(PVP)によって保護された新規な魔法数金クラスター(Au24およびAu38)の選択的合成を達成したが、2020年度ではAu24とAu38の幾何構造を収差補正透過電子顕微鏡を用いた高速撮像 (0.04 秒/枚) によって追跡し、Au24とAu38の幾何構造が室温の観察条件において動的であることを見出した。また、ベンジルアルコールの空気酸化反応をモデル反応に用いてAu24とAu38の触媒活性を定量的に評価し、0度から30度の温度範囲においてAu38はAu24よりも高い触媒活性を示すことを明らかにした。さらに、アレニウスの式に基づく解析からAu24とAu38は活性化エネルギーに有意な差を示さず、サイズによる活性差は頻度因子に由来するということを解き明かした。加えて、Au24によるベンジルアルコールの触媒的酸化反応について速度論的同位体効果と置換基効果を測定することで、アルコールのアルファ炭素からAu24へのヒドリド転移がアルコール酸化の律速過程であることを明らかにした。 以上のように、ポリマー保護金クラスターの構造および触媒作用について興味深い知見を得た。直鎖型ポリマーを保護剤とする金属クラスターについて原子精度でサイズ特異的触媒活性を観測した例は世界初である。したがって、本研究成果の意義深さから当該の研究課題について2020年度は当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究でポリビニルピロリドン(PVP)で保護された新規魔法数金クラスター(Au24およびAu38)の選択合成を達成し、アルコールの空気酸化反応についてサイズ特異的触媒活性を観測した。さらに、Au24については構造と触媒反応機構について詳細な検討を行なった。今後はAu38の構造と酸化触媒機構についても検討を進めていく。そして、Au24とAu38を比較し、サイズ特異的な構造と触媒作用の起源について考察していく予定である。空気酸化触媒作用については、金クラスターの表面負電荷が重要なパラメーターであることが指摘されているため、X線光電子分光とフーリエ変換赤外分光法によって電子状態を評価する。赤外分光では金クラスターに吸着させた一酸化炭素分子をプローブとして用いる。すなわち、吸着一酸化炭素分子の伸縮振動周波数について、赤方偏移の大きさを金クラスターの電子供与能の指標として用いる。 さらに、今後はAu24とAu38への精密な異種金属導入にも取り組み、サイズ・組成が触媒作用に与える効果を原子レベルの精度で明らかにしていく。水素化ホウ素ナトリウムの添加によって生成した吸着水素による還元作用を利用して異種金属イオンを析出させることを試みる。ドープする異種金属元素としては以前に1原子ドープに成功したパラジウムとロジウムが有望であると考えられる。マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法によって金クラスターへの異種金属ドープ量を評価する。そして、得られた合金クラスターについて、粉末X線回折・X線吸収微細構造解析・透過電子顕微鏡観察・密度汎関数法計算によって構造解析を行う。触媒性能評価は空気酸化反応や水素化反応を用いて行い、活性・選択性とドープ量との定量的な相関関係を明らかにし、クラスターの幾何構造や各元素の電荷状態といった観点から考察を行う。
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