研究課題/領域番号 |
19J22216
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山田 智史 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 巨大ブラックホール / 活動銀河核 / X線天文学 / NuSTAR / 赤外線銀河 / 合体銀河 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は「銀河と巨大ブラックホール(以下、BH)の共進化の解明」である。共進化は、合体時に銀河とBHが急成長することに加え、互いに影響を及ぼし合うことで引き起こされると予測され、合体時の(1)銀河からBHへの質量供給と(2)BHから銀河への質量放出の物理機構を明らかにすることが喫緊の課題である。2020年度は、質量供給源の役割を担うトーラスからの質量降着率を求めるために、トーラスの粗密構造を再現した最新のX線放射モデルを観測データに当てはめた。具体的にはBH近傍からの放射を反映する硬X線(>10 keV)で観測された合体銀河84天体に対し、5つのX線衛星(NuSTAR、Chandra、XMM-Newton、Suzaku、Swift)による過去20年分のX線データを解析した。画像解析により各銀河の寄与を分離し、得られた高質なX線スペクトル解析により、40もの銀河からトーラスや質量降着成分によるX線放射を特定できた。その結果、合体に伴いトーラスが発達し、さらにはBHの質量降着率が、輻射圧と重力が拮抗し、それ以上降着できない限界にまで増加することを示した。
さらに(2)について、多波長観測の先行研究も多数参照し、BH近傍からの輻射圧によるアウトフローについて調査した。すると、合体末期ではアウトフローが母銀河にまで広がることが分かった。特に、赤外線光度に対するX線光度が極端に小さい傾向や、同じ降着率の通常銀河よりも早いアウトフローを持つことも判明した。以上の結果は、合体での流入物質によりBH近傍にX線吸収体が形成され、電離を抑制し、紫外線の光速近い円盤風が卓越して、BH近傍から多量な物質が銀河にまで輸送される描像で説明できる。これらの成果は論文にまとめ、合体の兆候のない銀河については Yamada et al. 2020, 897, 107として出版済みであり、合体中の赤外線銀河についてもYamada et al. 2021 としてApJSに投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、(1)合体銀河の系統的なX線スペクトル解析によるトーラス構造と質量降着の物理機構の解明、(2)ALMAの高感度電波観測による合体銀河中でのアウトフローの進化の調査、(3)中間赤外線を用いた "埋もれた活動銀河核"の探査、という3つの研究を予定していた。合体末期では発達したトーラスを持ち、質量降着率が高く、アウトフローも強いと理論研究から予想されていたため、その検証や、実際の物理的起源の解明が目的であった。本年度に実際に行った研究は(1)のみであったが、(2)と(3)については先行研究の結果を網羅的に調べ、研究(1)の結果と比較を行うことで目的を果たした。特に査読誌ApJSに投稿中のYamada et al. 2021では、X線観測により過去最高精度で質量降着機構の物理量を推定し、多波長観測から示唆されているアウトフロー強度との比較を系統的に行えるようにした。その結果として、合体末期ではX線で弱く、その正体であるBH近傍のX線吸収体が電離度を下げ、降着円盤からの強いアウトフローが生じ得る描像を初めて提唱することに成功した。また、複数の国際学会等で口頭発表を行い、積極的に研究成果のアピールをした。さらには愛媛大学のセミナー講演にも招待されるなど、多くの研究者の注目を集める成果となっている。
さらに、(2)の目的に相当する研究として、京大せいめい3.8m望遠鏡による可視面分光観測も複数行ってきた。本観測では、空間ごとに可視光スペクトルを抽出できるため、輝線の青方偏移からアウトフロー速度を求めたり、輝線日診断法を用いて活動銀河核/星形成/アウトフローの活動性を評価することもできる。本観測は2019年度から行っており、観測提案者である鳥羽儀樹研究員と共に論文を執筆中である(Yamada et al. 2021b; Toba, Yamada et al. 2021)。このように、当初の予定に相当する研究を遂行しており、概ね順調であったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度には、X線から赤外線までの多波長スペクトルエネルギー分布に対し、近年開発されたアウトフロー放射モデルを適用して、系統的に合体銀河中のアウトフロー強度を推定する。アウトフローの放射は特に赤外線で卓越するため、複数の全天赤外線観測データを使用する。また、X線からはBHへの質量降着率、遠赤外線では星形成率も推定できるため、合体段階毎にブラックホールと銀河の成長率や、アウトフローの質量・エネルギー輸送率を見積もる。特にアウトフロー強度と質量降着率・星形成率の相関を調べることで、アウトフローが双方の成長を抑制する作用を定量的に評価し、合体進化の継続時間や、最大成長率も言及できる可能性がある。以上より、アウトフローの影響を考慮した上で、合体時における銀河とBHの共進化の物理機構の解明に迫ることができると期待される。
また、2022年4月に稼働予定の中間赤外線装置TAO/MIMIZUKUによる中心核のアウトフロー成分の直接観測に向けた準備も行う。合体銀河におけるアウトフローの物理量を高精度で決定するには、銀河スケールにまで広がった電離ガス成分のアウトフローと、より中心部に存在すると予測されるダスト成分のアウトフローの両者の空間分布の違いを解明することも不可欠である。特にダスト成分のアウトフロー強度は、空間構造の仮定に強く依存するため、系統誤差による解釈の不定性を除くのが困難である。そこで、すでにチーム内観測時間が承認されている高空間分解能の中間赤外線装置TAO/MIMIZUKUを用いれば、2-38μm帯で従来よりも遥かに高い空間分解能観測が実現し、ダスト成分のアウトフローの空間分布を直接調査できる。以上により、合体段階毎に質量降着率・アウトフロー強度・星形成率を調査し、アウトフローによる質量輸送機構の解明に取り組む予定である。そのため、観測シミュレーションや候補天体の選定を行い、必要な準備を行う。
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