当該年度においては、昨年度までに開発したケイ素traceless保護による官能基受容性の高いカルボン酸変換法に関する詳細な機構解析を中心に行った。比較実験から、アルキルエステルとの活性の違いについて詳細に検討を行い、更に計算からケイ素エステルの高活性がpKaに由来することを解明した。酸性度の異常な向上に関する原因については現在検討中ではあるものの、誘起効果以外にケイ素のα効果の寄与があると考えている。特にアルドール反応においては、活性の高いケイ素エステルとアルデヒドを単分子のホウ素触媒種が活性化していることを計算及び、非線形効果実験から明らかにすることに成功した。また遷移状態においては配位子の置換基の立体的効果により、z-enolateが優先的に生成していることを計算が示唆しており、この生成をNMR実験から明らかにした。また、立体選択性についても、エナンチオ選択性及び、ジアステレオ選択性を高い精度で予測できており、用いる計算の確からしさを示している。以上の機構解析を前年度までの研究結果と合わせて、ドイツ化学会誌に報告した。 本研究により開発した、極めて官能基許容性の高いカルボン酸選択的触媒的不斉アルドール反応は様々な複雑化合物に可能であり、医薬品の立体選択的後期誘導体化を実現するのみならず、本研究のコンセプトであるホウ素触媒とカルボン酸のケイ素traceless保護及び活性化のコンビネーションはカルボン酸エノラートを介する様々な反応に応用可能であり、今後の研究が期待される。
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