2020年度においては、当初、2019年度に行った「1930年代の南洋論」についての追加の資料調査を行うため、前年度に資料の所在と概要を把握できた東京都小笠原村に加え、新たに伊豆大島、八丈島などを訪問する予定であった。しかし、2020年2月ごろより拡大した新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の影響により、人の移動は制限された。加えて、ご高齢のご遺族や、医療体制が貧弱な離島に対する配慮から、いずれの調査も中止せざるを得なかった。やむを得ず、「1930年代の南洋論」についての研究遂行を中断し、前年度収集した資料をもとに、小笠原諸島の現代史に関する研究を進めた。 2019年度、「1930年代の南洋論」に係る調査のため小笠原村父島を訪れた際、同村の「旧島民」の一人にお話を伺うことができた。2020年度は、前年度父島で行ったインタビューに加え、インターネット上で閲覧できる1960年代の新聞や雑誌、国立国会図書館の郵送サービス等を用いて、小笠原諸島の現代史と「旧島民」のかかわりについて調査した。その結果、強制疎開後、関東地方を中心に日本各地に散らばった「旧島民」たちは、帰郷促進連盟の運動を介してゆるやかな繋がりを保っており、1960年代の合衆国政府による保障や墓参の実現などの成果を得ていたことが分かった。このことは、雑誌の発行やサークル活動といった運動を介しての「人と人とのつながり=ネットワーク」に注目する報告者の関心に沿うものでもあった。 今年度得られた成果により、「一匡社」とは異なる「ネットワーク」の存在と形態が明らかになりつつある。「一匡社」を「帰郷促進連盟」と比較することにより、「一匡社」についての検討をさらに深めることができるだろう。これらの成果を通じて「近代日本における人と人とのネットワーク」というテーマをより多角的に分析できるものである。
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