研究課題/領域番号 |
19J22381
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
米田 大樹 立命館大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 弾性シェル / 幾何力学 / 多重安定性 |
研究実績の概要 |
薄い(細い)弾性構造は、展開収納、座屈、平面からの3次元形状構築など、驚異的な変形特性が発現しうる。今年度は、中でも外力による弾性変形である安定な形状から別の安定な形状に形を変えることができる「多重安定」性質に着目し、その力学原理を、力学モデル実験、有限要素法による数値解析、理論的な考察を組み合わせて考えた。そのための具体モデルとして、 特に以下の2つを詳しく調べた。 ひとつ目は、カイラリティのあるポップアップ折り切り紙 Rotational erection system (RES)である。RES の構造は、折り紙と切り紙を組み合せたもので、さらに自身のカイラリティによって双安定性を創発する。平面に切り込みを入れただけの安定な初期状態から、回転を伴って駆動し起立状態でまた安定な形状となる。これは一般的な折り紙、あるいは切り紙の力学性質とは違い、RESは各安定状態で折り目の部分に変形を局在化させることで、面の曲げを解消した安定状態を獲得している。初年度に実施した物理実験の測定制度を改善させ、シミュレーションソフト ABAQUS (DASSAULT SYSTEMES)を用いたシェルモデルの数値計算と弾性変形の理論計算を行った。これによって変形弾性力のヤング率依存性とスケール依存性を発見し、理論的に説明できた。現在論文を執筆中である。 ふたつ目は、折り畳まれる細菌べん毛である。特定のバクテリアは、らせんべん毛をトルク制御し、菌体自身に巻き付けるように変形させることがきることが知られている。らせんべん毛は反転してもその形状を維持できる多重安定構造であり、この反転のメカニズムを詳しく測定するために、数10cmスケールのマクロ実験系を新規に構築した。同期したカメラによる2点からの光学観察により、らせんの収納展開を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題のキーワードにも上げている多重安定構造に関連した具体モデルを扱い、力学測定と数値解析、理論考察の3つの手法で駆動の仕組みを調べた。RES折り切り紙については、昨年度に実施したトルクと形状の測定の精度を向上させ、有限要素法解析の詳細な計算体系を構築した。また、カイラリティによる幾何拘束と特徴的な曲率変化から、系の力学応答を説明することができた。これらをまとめて、現在論文を執筆中である。 一方で、感染症拡大に伴う大学の封鎖により、べん毛のマクロモデル作成と実験系の構築には当初の計画よりも大幅に時間がかかった。60cmサイズの流体槽と測定のための実験系は研究室でしか扱えなかったためである。その期間を利用して、自宅でいくつかの手法によるべん毛モデル形成を検討して、試作(および試作するための作業スペース構築)を繰り返し、数値シミュレーションに関しても大学の計算サーバーを研究室メンバーと共有しつつ遠隔で操作する環境を整備するなどして、進展はあった。べん毛の実験モデルはおおよそ完成したが、実際の菌体にあるフック(ユニバーサルジョイント)機構を再現するための技術的な問題を解決する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた薄い構造の力学特性に関する知見に基づき、生物に見られる薄膜構造の駆動メカニズムを明らかにする。具体モデルに細菌のべん毛の反転収納を扱う。自由境界のあるらせんが粘性流体内で特定の方向に回転すると、非自明な経路を通ってらせん全体が反転する。このらせんべん毛の収納駆動における反転の立体変形と駆動トルクを、構築したべん毛モデル実験系を用いて測定する。そのためにトルクは伝達するが自由に曲がることができるユニバーサルジョイント機構を物理モデルに組み込むことが課題になっている。初年度円筒じゃばら構造が、この問題解決に有用であると予想されており、応用デザインとして取り入れたい。
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