研究課題/領域番号 |
19J22400
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
森山 教洋 広島大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 膜 / 水熱安定性 / 水蒸気 / ゾル・ゲル法 |
研究実績の概要 |
汎用の高分子膜や従来のシリカ膜は100℃以上での水熱雰囲気での安定性に乏しいが、本研究では、加水分解されないSi-C構造を有する1,2-bis(triethoxysilyl)ethane (BTESE)を用いた膜を初めて湿りガス分離に応用し、200℃水蒸気下においても安定した分離性能を示す事を明らかにした。親水的なSiOH構造と疎水的なC-C構造によって親水性を適度に制御したBTESE膜は、既往の他材料膜と同程度の分離性を有しながらも10倍程度高い処理量(5×10-6 mol/(m2 s Pa))を示した。この処理量は申請当初の目標値をすでに達成している。BTESE膜は中高温における水蒸気選択透過性に優れることから、中高温排ガスからの水蒸気回収への応用の可能性がある。 また、BTESE膜のさらなる水熱安定性の向上にも取り組んだ。従来のBTESE膜は支持体・中間層・分離層の多層構造から成るが、加圧水蒸気下ではシリカジルコニア中間層の透過性が著しく低下することを特定し、分離層と同じBTESEを用いてBTESE中間層を作製する技術の開発を行った。ゾル調製時のpHを変化させることで従来よりも大きなゾルを調製し、このゾルを用いることで従来のシリカジルコニア中間層と同様な細孔径分布を有するBTESE中間層の作製に成功した。200℃加圧水蒸気下において安定性試験を行ったところ、シリカジルコニア中間層を用いた従来のBTESE膜の水蒸気処理量が数十時間で著しく減少するのに対し、BTESE中間層を用いた新規BTESE膜の処理量は361時間後でも申請時の目標であった5×10-6 mol/(m2 s Pa)の高い値を維持した。安定試験後の膜性能を比較すると、処理量が従来の50倍、水蒸気/窒素の選択性が従来の2.5倍中向上し、高温加圧水蒸気下でも使用可能なBTESE膜の開発に成功したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本実験系は、液体の水を水蒸気に気化させ、膜システムに安定供給する必要があり、実験の難しい系である。このような実験を広範囲の操作条件で安定的に行うことの出来る装置を設計・自作し、再現性のあるデータを得ることが出来るようになった。 親水性を適度に制御したオルガノシリカ膜は、水蒸気分離において非常に高い処理量(5×10-6 mol/(m2 s Pa))を示した。この値は既往の他材料膜よりも5-10倍高い値であり、当初の目標をすでに達成している。この研究成果を2019年度にJournal of Membrane Scienceに報告した。 さらに、オルガノシリア膜は極めて透過性が高いため、水蒸気分圧が膜モジュール入口と出口で変化してしまう。このような場合に、実験データに基づいて透過率を求める算出式の妥当性について数値計算により検討し、算出式の適用範囲を分かりやすくマッピングした。この一連の研究成果を2019年度に化学工学のtop journalであるAIChE Journalに投稿し、2020年度4月に掲載が決定した。 また、オルガノシリカ膜の水熱安定性向上にも取り組み、特に膜構造に注目して、疎水的な多孔質中間層を用いることを提案した。作製した新規オルガノシリカ膜の水熱安定性は著しく向上し、加圧水蒸気下においても当初の目標以上の安定した処理量を達成した。こちらの研究成果については12th International Congress on Membranes and Membrane Processes (ICOM2020)にて発表予定であり、現在、論文投稿の準備中である。 上記のように、今年度は当初の目標を達成する膜を開発しただけでなく、膜性能の評価方法に関しても研究成果をまとめることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
3つの視点((1)高選択透過性シリカ膜の設計・開発、(2)各種分離系における分離性能評価、(3)透過機構のモデリング)から、バランスよく、相互にフィードバックを行いながら、透過特性の制御と解明を進める。 透過機構のモデリングの視点からは、特に需要の大きい水分子の透過に着目する。水は実用環境で気液の相変化が容易に起こり、その透過特性は細孔中での水の相状態に依存するものと思われる。様々な条件で水蒸気を安定供給可能な装置の設計・改良を行い、まずは、蒸気透過(膜の透過側と非透過側がいずれも気相)に着目し、水蒸気の透過速度を評価する。水の透過挙動を温度・圧力変化に対する透過速度変化から解析し、水の透過機構を明らかにする。得られた透過機構に基づき、実用環境における透過法の最適解、最適操作条件、求められる膜性能を決定する。 性能評価の視点からは、細孔径や親疎水性が水蒸気分離性能に及ぼす影響を実験的に評価し、求められる膜性能を達成するための製膜指針を示す。ここでは、各種用途に応じた膜の作り分けの方法を明確にすることが主な目的である。実験が容易である有機水溶液の浸透気化分離における膜細孔径の影響を明らかにするところから始め、湿りガス分離へと展開したい。 膜開発の視点からは、オルガノシリカ膜を炭素利用技術として需要のあるメタネーション(CO2+4H2⇔CH4+2H2O)、(CO2+3H2⇔CH3OH+H2O)への応用を想定し、200℃―400℃の水蒸気/水素を使用分離可能な膜の開発を行う。具体的には、金属イオンを分離層のネットワーク中に取り込むことにより、分離層を親水化させ、高温でも水の吸着による水選択透過が可能な膜を作製する。このとき、膜構造中のSiOH基の反応が金属イオンによって抑制されることで、水熱安定性が向上することも期待される。また、分離層を支持する中間層の水熱安定性についても検討する。
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