研究実績の概要 |
本研究の目的は、未だに報告例の少ない3種複合アニオン化合物の光触媒機能を粒子サイズ、結晶構造、励起キャリアダイナミクスという多角的な観点から検討し、さらなる高活性化に必要な指針を明らかにすることにある。本年度は、2段階励起型(Zスキーム)水分解系において、酸素生成光触媒として機能することが既に明らかになっている窒素/フッ素共ドープルチル型TiO2 (TiO2:N,F)の活性が、粒子サイズにどのように依存するかを明らかにすることを目的とした。その結果、窒素/フッ素共ドープを行う母体であるTiO2前駆体の粒径を調整することにより、TiO2:N,Fの粒径を制御できることが明らかになった。さらに、合成したナノ粒子型TiO2:N,FをO2生成光触媒とした、可視光Zスキーム水分解系は、既報のバルク型TiO2:N,Fを用いたもの (Sustainable Energy Fuels, 2018, 2, 2025)に比べて6倍の活性を示した。この系の活性は、代表的なO2生成光触媒であるBiVO4を用いた類似のZスキーム水分解系の活性に迫るものであった。活性向上の原因を明らかにするために、ナノ粒子型TiO2:N,Fとバルク型TiO2:N,Fの物理および化学的性質の比較を行った。その結果、粒径の減少による励起キャリアの拡散距離の短縮による再結合の抑制や比表面積の増大以外にも、自由に動ける励起電子濃度の上昇がナノ粒子型TiO2:N,Fの高い光触媒活性に寄与していることが強く示唆された。これは、酸窒化物光触媒を用いた水の完全分解において、ナノ粒子体とバルク体の活性とそれを支配する要因を検討した初めての例である。また、実験のみでは明らかにしにくい窒素/フッ素共ドープの効果およびTiO2:N,Fの構造についての情報を、計算化学を用いることにより得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、窒素/フッ素共ドープルチル型TiO2 (TiO2:N,F)について、計算化学と実験を組み合わせた研究を行った。これにより、窒素/フッ素共ドープにおける窒素とフッ素それぞれの役割について、実験および計算の双方から明らかにすることに成功した。また、実験においては、TiO2:N,Fをナノ粒子化することにより、活性を6倍に向上することに成功した。未だ0.027%程度であるTiO2:N,Fを用いた2段階励起型(Zスキーム)水分解光触媒系の太陽光エネルギー変換効率をさらに向上するうえで重要であると考えられる。また、今回得られた光触媒活性が大きく粒径に依存するという知見は、TiO2:N,Fの多形やその他の3種複合アニオン型光触媒の活性を比較する上でも、重要である。得られた成果は、既に学会での発表(国内8件、国外2件)を通して外部に発信しており、論文も執筆中である。
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