研究課題
アルツハイマー病(AD)は進行性の認知障害を呈する神経変性疾患で,脳内アミロイドβ(Aβ)の凝集が主要な発症要因であると提唱されている.これまで,Aβを標的とした治療薬が開発されてきたが,その多くは有効な効果が得られていないと考えられている.その原因としてAβ以外の分子による病態形成が指摘されている.そこで,Aβ病態を補完する新たな治療標的の同定が必要である.近年,AD初期病態として,Aβの前駆体であるAPPカルボキシル末端断片・βCTFが脳内で蓄積し,小胞輸送障害を引き起こすことが注目されている.しかし,その分子機構は明らかでなく,治療薬の開発は頓挫している.申請者らはこれまで,孤発性ADに深く関与し,βCTF産生酵素であるβセクレターゼ(BACE1)について,ADモデル細胞系を樹立し、βCTFによる小胞輸送障害に脂質輸送関連因子・TMEM30Aが関与すること,両者の結合がエンドソームの肥大化(輸送障害)を引き起こすことを明らかにしている.TMEM30Aはリピッドフリッパーゼの構成因子で,脂質二重膜におけるリン脂質の細胞質側への輸送を制御し、この機能は小胞輸送に必須である.申請者は、本モデル細胞系において、生化学的手法及び、split-luciferaseを応用した新規測定系を用い,TMEM30A/βCTFの複合体形成によるリピッドフリッパーゼの機能低下がAD特異的小胞輸送障害に関与することを新たに示した.また,TMEM30A/βCTF複合体形成に伴うリピッドフリッパーゼの機能不全は,ADモデル動物でも再現され,興味深いことに,Aβ蓄積以前に生じることが示唆された.さらに,申請者は輸送障害を改善しうる候補化合物を本モデル細胞系に処理し、リピッドフリッパーゼの機能及び、エンドソームの肥大化が改善されることを明らかにし、治療標的となる分子を見出した.以上から,リピッドフリッパーゼはAD初期病態である小胞輸送障害を改善しうる新規治療標的となることが期待された.
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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iScience
巻: 25 ページ: 103869
10.1016/j.isci.2022.103869