研究課題/領域番号 |
19J22448
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
亀井 健一郎 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞の状態 / ラマン分光 / トランスクリプトーム / プロテオーム / メタボローム / 増殖曲線 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本年度は、細胞のラマンスペクトルと(1)プロテオームとの関係、(2)メタボロームとの関係、(3)増殖曲線との関係について、実験解析を行った。また(4)ラマン顕微鏡の改変を行った。
(1)については、異なる環境条件下の大腸菌の絶対定量プロテオーム公開データを用いた。同条件の大腸菌を用意し、ラマンスペクトルを取得、回帰分析を行い、絶対定量プロテオームデータがラマンスペクトルから推定できることを示した。(2)については、異なる環境条件下のラット由来がん細胞の定量メタボロームデータがラマンスペクトルから推定できることを示した。(3)は、同一条件下で培養した遺伝子型の異なる大腸菌(異なる一遺伝子欠損株)を対象とした。増殖曲線及び対数増殖期の細胞のラマンスペクトルを取得し、増殖曲線全体の違いが対数増殖期のラマンスペクトルから定量的に推定できることを示した。 我々は以前、分裂酵母や大腸菌を対象としてラマンスペクトルとトランスクリプトームの間の対応を報告したが、(1)(2)により細胞ラマンスペクトルがトランスクリプトーム以外のオミクス層の情報も含んでいることが明らかになりつつある。また(3)によって、ラマンスペクトルから、オミクスデータのような細胞の分子構成に直接関わる量だけではなく、増殖のような細胞のマクロな生理状態に関する情報をも直接定量的に知り得ることが示唆された。
(4)については、長波長のレーザー発振器を増設し、それに伴い光学系を一部改造した。(ただし作業は途中段階である。)これは将来的に生細胞を対象としてラマンスペクトルを計測し「ライブセルオミクス」を実現するための第一歩である。また上述の細胞ラマンスペクトルの性質がレーザー波長に依存しないかどうかを確認することは、細胞状態の非破壊観察手段としてのラマン分光法の有用性を考える上で欠かせない点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実験解析により、細胞ラマンスペクトルが細胞状態に関して持つ情報の豊かさが見えてきた。また、細胞状態を表す各種生物学的指標と細胞ラマンスペクトルとの定量関係が様々な細胞種や摂動について広く存在する可能性も明らかとなってきた。これは来年度以降の研究につながる大きな進展であると考えている。 一方で、ラマン計測の技術面に関して、ラマンスペクトル取得の効率化を計画していたが、今年度は実施せず今後の課題とした。 以上を総合的に判断して「おおむね順調に進展している」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
高次元のオミクス情報が低次元のラマンスペクトルから推定できているのは、オミクス情報の実質的な次元が低次元であることによる。しかしこの低次元性の具体的な素性は明らかではない。低次元のラマンスペクトルとオミクス情報との連関の背景に迫ることで、細胞のグローバルな状態変化にかかっている拘束がどのようなものかについて理解を深めるべく、今年度得たラマン―オミクス対応のデータをより深く解析する予定である。また、今年度は増殖曲線をラマンスペクトルから高い精度で推定できることも示したが、トランスクリプトームから推定した場合にはどの程度の精度が出るのかを調べ、ラマンスペクトルとトランスクリプトームの持つ情報の違いについての比較検討を行う。 さらにこれらのプロセスを通して、細胞ラマンスペクトルの生物学的な解釈を深め、細胞ラマンスペクトルの強みを生かした細胞研究の可能性をより具体的に広げたいと考えている。 また、現在作業中である光学系の改造を完了させ、今年度やり残したラマンスペクトル取得の効率化についても取り組む予定である。
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