研究課題/領域番号 |
19J22456
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
渡辺 啓太 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 食物繊維 / エネルギー代謝 / 短鎖脂肪酸 |
研究実績の概要 |
本年は、食物繊維の結合様式や鎖長の違いに着目して、代謝改善作用にもたらす有用な食物繊維の探索を行った。食物繊維としては、同じ結合様式を有する粒子径の異なった水溶性食物繊維(大径繊維:F-1、小径繊維:F-2)を研究対象とすることで、摂取時の粒子径の違いによる腸内細菌叢の構成変化と、様々な腸内細菌代謝物量の変化、さらには免疫応答への影響についても検討した。本年度の研究の結果、セルロース負荷群と比べて、F-1、F-2のいずれの負荷群も既報の通り、免疫機能の増強効果を示した。また、メタ16S腸内細菌叢解析や腸内細菌代謝物測定により、これらの食物繊維負荷による腸内環境変化は、短期間で応答することを確認した。さらに、腸内細菌により構造変換され、組成が変化する胆汁酸においても、これらの食物繊維負荷により存在量や存在比率が変化することを確認した。F-1、F-2負荷群においては、セルロース負荷群と比較して、二次胆汁酸の種類の増加が確認された。また、一次胆汁酸の総量の有意な減少が確認された。これは、食物繊維による腸内微生物叢変化に起因することが示唆され、実際に、糞便中において二次胆汁酸産生菌科の増加が確認されており、腸内細菌叢変化が昨年度確認された短鎖脂肪酸の産生量増加のみならず、一次胆汁酸から二次胆汁酸への変換の促進と、再吸収に関与する可能性が示唆された。また、食物繊維の含有量の異なる組成の食事を摂取させた際の腸内細菌代謝物量の変化を検討した結果、F-2においてのみ、一部短鎖脂肪酸において、食物繊維量が低含有であっても、高含有量食と同程度の産生が確認された。以上より、食物繊維摂取による代謝改善効果の作用機序に関しては、食物繊維の結合様式、摂取時の粒子径の違いによって生じる腸内細菌代謝物の産生プロファイルの変動に従う、異なった複数の分子作用メカニズムを有する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年、食物繊維由来短鎖脂肪酸によるエネルギー代謝制御機構の解明に関する研究を進展させた。研究計項目『肥満抑制効果の高い食物繊維の選別』においては、昨年度までに示した食物繊維の結合様式、分子サイズの違いによって生じる短鎖脂肪酸の特徴的な産生プロファイルの変動に加えて、それら食物繊維の種類の違いが腸内細菌叢変化に伴い、その他の腸内細菌代謝物の変化にも寄与する可能性を見出している。加えて、当初の研究計画にはなかったが、これらの腸内細菌代謝物の産生プロファイルの違いがエネルギー代謝のみならず免疫応答にも影響している可能性を示した。それらの表現型に対する詳細な分子メカニズムを明らかにするべく、三年目に計画していた、遺伝子改変マウスを用いた動物実験を本年度から、単一遺伝子欠損マウスだけでなく二重遺伝子欠損マウスを対象として実施しており、研究計画項目の一つである『短鎖脂肪酸受容体相互作用の検討』に関しては進展があったと考える。 一方、申請当初二年目に計画していた、無菌試験およびノトバイオート実験においては、新型コロナウイルス対応としての登校自粛期間と、当初予定していた実験開始時期が重なったことなどから、十分な進捗を得ることができていない。 以上より、申請当初予定していた進捗予想と比較すると、本年度の研究はやや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究結果より、糊化剤、安定剤、増粘剤などとして食品添加物として使用されており、免疫系や骨代謝の改善作用が報告されているものの、エネルギー代謝への影響は明らかにされていない水溶性食物繊維が腸内細菌叢の構成を変化させ、短鎖脂肪酸や二次胆汁酸などの腸内細菌代謝物の産生量を変化させ、代謝改善効果をもたらす可能性が示唆された。短鎖脂肪酸の受容体である、GPR41とGPR43は、それぞれで二量体形成をし、ホモマーとして、下流シグナル伝達を行うことが知られているが、近年、生体内において、GPR41-GPR43ヘテロマーを形成することが明らかとなり、ホモマーとは異なるシグナル伝達を行うことが明らかとなった。さらに興味深いことに、このヘテロマーシグナル伝達は、ホモマーを介した経路よりも優勢である可能性が示めされており、これまで単一遺伝子欠損により明らかとなった各受容体の生理機能も、ヘテロマー消失による作用である可能性が示唆されている(FASEB J 32, 289-303 2018)。そこで本年度は、食物繊維由来短鎖脂肪酸による代謝機能改善効果の分子作用メカニズムを明らかにする為、短鎖脂肪酸受容体の単一遺伝子欠損マウスおよび二重遺伝子欠損マウスを対象として動物試験を実施し、食物繊維負荷による代謝機能改善抗肥満効果の詳細な分子メカニズムを明らかにすることを目的に、遺伝子発現変化や、各種代謝パラメーター(血液生化学指標、腸管ホルモン、運動量、エネルギー消費量、酸素消費量等)の測定を行っていく。
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