研究実績の概要 |
食事は日常生活の中で最も重要なエネルギー源である一方で、過剰で不均衡な食事は、肥満症や2型糖尿病などの代謝性疾患の有病率を高めることが知られている。食事介入による代謝性疾患の予防・改善策の一つとして食物繊維摂取が注目されており、肥満抑制効果に加えて、血糖値やインスリン感受性改善といった様々な代謝機能改善効果が確認されている。さらに、近年のメタ16S腸内細菌叢解析やメタボローム解析などのオミクス分析の開発により、腸内細菌叢とその代謝物が食物繊維摂取による代謝改善効果に密接に関連していることが明らかとされつつある。本年は、昨年度までに対象とした水溶性食物繊維による代謝改善作用の分子作用メカニズムの解明に着手した。その結果、対象とした水溶性食物繊維の摂取により、高脂肪食負荷に伴う血糖値と血漿総コレステロール値の増加が有意に抑制されることが確かめられた。このとき、腸管内では、短鎖脂肪酸産生菌や二次胆汁酸合成菌の増加といった腸内細菌叢変化、それに伴う腸内細菌代謝物・短鎖脂肪酸および二次胆汁酸の量の有意な増加が観察された。また、インスリンおよびインクレチン分泌の上昇が観察された。以上の結果より、対象とした水溶性食物繊維宿主代謝機能改善効果が、腸内環境の変化によるインクレチン分泌促進の結果である可能性が示唆された。本研究成果はBiochem Biophys Rep. 27, 101095 (2021)にて発表された。また、本研究で対象とした水溶性食物繊維を、短鎖脂肪酸受容体GPR41およびGPR43二重欠損マウスに摂取させても、野生型マウスで対照群と比較して見られた差の一部のみが消失しただけに留まり、短鎖脂肪酸以外の腸内細菌代謝物の影響が示唆された事からも、腸内環境変化を介したエネルギー代謝への影響は、腸内細菌代謝物による宿主の様々な受容体を介した複合的な作用に起因することが示唆される。
|