研究課題/領域番号 |
19J22457
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
入倉 友紀 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 無声映画 / ブルーバード映画 / ユニバーサル社 / 日本映画史 / アメリカ映画史 |
研究実績の概要 |
本研究は1916年から1919年にかけて活動したアメリカの映画会社、ブルーバード社とその映画群をフェミニズムと比較映画史の観点から再考するものである。当該年度は以下の研究を行った。 まず、ブルーバード映画の日本における人気に着目し、映画雑誌や映画館が発行していた劇場プログラムを用いてその受容を論じた。これらの一次資料には一般の読者や観客からの投書欄が設けられている場合が多く、それらの言説を調査することで、当時の観客がブルーバード映画をどのように受け入れたかを明らかにした。また、当時のブルーバード映画の日本における興行にも着目した。ユニバーサル社は、他の映画会社に先がけて1916年に日本に支社を設立し、現地の日本人興行師と連携したことで、日本において計画的に子会社であるブルーバード社の映画群を配給する土台を築いた。この研究成果の発表は英語論文の執筆と国際学会における発表の形で行った。 加えて、1910年代のアメリカ映画界の状況を再考した。まず、1910年代にアメリカ映画界が経験した長編劇映画への移行という大きな変革を様々な観点から検討した。その上で、ユニバーサル社がどのように長編劇映画の製作へ舵を切ったか論じた。一般的に同社は長編劇映画への移行に乗り遅れたと考えられているが、実際には1910年代にユニバーサル社は様々な方法で長編劇映画製作を模索しており、その結果としてブルーバード社を設立するに至ったことを明らかにした。なお、本研究の成果は2つの論文の形で発表している。 また、無声映画祭Le Giornate del Cinema Mutoの若手育成プログラムに参加して同時代の外国映画を数多く視聴することで、ブルーバード映画との比較を行った。期間中は他の研究者との議論を通じて、ブルーバード社の研究に関して貴重な意見を得ることも出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究では、現存するブルーバード映画の視聴と分析、同社に在籍した監督の特色、同社の監督と女優の関係等を論じてきた。それを踏まえて、当初の計画では、2020年度から2021年度にかけて海外での調査を行い、アメリカ、日本、ヨーロッパにおける同社の受容を比較映画史の観点から論じる予定であった。しかし、新型コロナウイルスの影響により、渡航を延期して日本における調査を中心とせざるを得なくなった。そこで当該年度は計画を変更し、ブルーバード社をアメリカ映画史、日本映画史の双方においてどのように位置づけることが出来るかを幅広い観点から検討し、研究を行った。 まず、ブルーバード社の日本における受容をより客観的な視点から論じることを目指した。従来日本におけるブルーバード映画の影響力は、抽象的に語られることが多く、映画雑誌や劇場プログラムの刊行、興行戦略といった観点から論じられることが少なかった。そのため本研究を行ったことは、同映画群の日本における受容を客観的に捉え直しただけでなく、当時の観客の生の声に着目した点でも意義がある。また、これらの一次資料を丹念に調査する時間を確保できたことで、同社の俳優陣、とりわけ女優陣が日本において大きな影響力を持っていたことが明らかになった。こちらに関しては継続した調査を行う予定である。 加えて、1910年代のアメリカ映画界を再考したことは、アメリカ映画史においてブルーバード社をどう位置付けるか論じる上での土台となった。長編劇映画への移行というアメリカ映画界全体の流れの中で、ユニバーサル社の戦略を明らかにしたことは、同社の子会社であるブルーバード社のより包括的な理解を可能とした。 さらに、ブルーバード映画の特色を同時代の外国映画との比較において考えたことは、同映画群の特色を新たな視点から明らかにすることに繋がった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は延期していた海外での調査を行う。アーカイブが所蔵するブルーバード映画の視聴を行うとともに、各国における同映画群の受容を調査する。ブルーバード社はこれまで日本映画史の観点から語られることが多く、同社の他国での受容を調査した研究は非常に少ないため、意義のあるものになると考える。 アメリカでの調査は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に3か月間滞在し、同大学とマーガレット・ヘリック図書館(映画に関連する資料に特化した図書館)において行う。映画雑誌などの一次資料を通してブルーバード映画の言説を調査し、アメリカ本国において、同社の映画群が当時どのように受容されたか、また同社に在籍した監督や俳優はどのように評価されていたかを明らかにすることを目指す。また、滞在中にアメリカ議会図書館を訪れ、同館が所有するブルーバード映画の視聴も計画している。なお、この渡米は当初2020年3月に予定していたが、受入大学の判断により延期されていたものである。 加えて、フランスへの渡航を計画している。ブルーバード映画は第一次大戦後のヨーロッパにおいても公開され、現存する作品の多くが欧州のアーカイブに所蔵されている。その中でもフランスの国立映画映像センターCNCは多くのブルーバード映画を所有している。現地でそれらの作品を視聴すると共に、同国においてブルーバード社の映画群がどのように受け入れられたかを、当時の映画雑誌などから調査する。なお、この渡航も新型コロナウイルスの影響により延期となっていたものである。 さらに、日本の映画雑誌や劇場プログラムといった一次資料の調査から明らかになったブルーバード映画俳優の日本における人気や、同社の日本映画界における影響力に関しての調査を継続し、論文や学会発表の形で成果を発表する。
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