薬剤耐性遺伝子を失っても薬剤クロラムフェニコール(Cp)に適応する大腸菌の研究について、昨年度は大サブユニットと小サブユニットのリボソームタンパク質の発現バランスが一度崩れ、分裂を続けた細胞ではこのバランスが回復することを明らかにした。リボソームの発現はguanosine penta- or tetra- phosphate ((p)ppGpp)が制御している。そのため、本年度はこの(p)ppGppの発現をモニターする細胞株を用いて耐性遺伝子を失っても薬剤に適応できる細胞の(p)ppGppの変化を観察した。その結果、Cp環境下でCp耐性遺伝子を失った細胞では(p)ppGppが減少したが、Cp環境で分裂を続けられる細胞は分裂を停止した細胞に比べて(p)ppGppが多いことを明らかにした。この結果は(p)ppGppの減少がリボソームタンパク質の発現を必ずしもストイキオメトリーに沿わない形で増加させるという先行研究を踏まえると、分裂を続けられなかった細胞ではより(p)ppGppが減少したためより強くリボソームのバランスが崩れ成長できなくなったと推測される。 また、リボソームタンパク質の発現バランスまでの研究成果については追加解析を加えてまとめ、論文誌「eLife」に掲載予定である。 さらにより幅広い遺伝子をターゲットにして遺伝子除去をした後の細胞の表現型変化を観察するためにはより効率の良い遺伝子組換え技術が必要不可欠である。そのため、本年度は蛍光タンパク質を利用し細胞の蛍光の有無から遺伝子組換えに成功したかどうかを即時に明らかにする方法を確立した。ゲノム上の6つの部位について遺伝子組み換えを行い、従来の方法では組換えに成功した細胞が数%しかいないような組換えに対しても、蛍光を利用することで80%近い確率で組換えに成功した細胞を取り出すことに成功した。この方法の確立によってより簡便に遺伝子組換えに成功した細胞を選び出すことができるようになった。
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