研究課題/領域番号 |
19J22514
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉松 弘志 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 時間知覚 / 視聴覚統合 / 心理物理学 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的はヒトの時間知覚における脳の神経基盤を解明することである。特に明滅刺激などの周期的に変化する刺激を用いることで、外部刺激の周期性が時間知覚に与える効果と脳活動との関連に焦点を当てて研究を進めた。本年はこれらに関する先行研究を調べるとともに、実際に心理物理学的手法を用いた実験を行なった。 呈示刺激の知覚時間はその刺激の周期的な変化により歪められることが知られている。先行研究では同じ周波数の刺激変化であっても、視覚の明滅が変化する刺激は知覚時間の延長を引き起こすのに対し、聴覚の音量が変化する刺激は知覚時間の短縮を引き起こすことが報告されている。これは刺激の時間周波数が知覚時間に及ぼす効果が、受け取る刺激のモダリティによって異なることを示唆している。しかし我々が実際に外界から受け取る刺激のほとんどは視聴覚情報が同時に呈示されるものであり、これらの情報統合が時間知覚に及ぼす影響に関しては解明されていない部分が多い。また、我々が視聴覚刺激のどちらにより注意を向けているかは状況によって様々で、この注意の向け方の違いが視聴覚刺激の時間情報処理に及ぼす効果についても現在も議論が続いている。 そこで視聴覚情報統合と刺激への注意が知覚時間に及ぼす影響について検討するため、同じ時間周波数で変化する視聴覚刺激を被験者に呈示し、その視覚刺激もしくは聴覚刺激のどちらかにのみ注意を向けた場合と、その両方に注意を向けた場合の知覚時間を比較した。結果として、視覚刺激に注意を向けた場合、両方に注意を向けた場合、聴覚刺激に注意を向けた場合の順に知覚時間が長いことが観察された。これらの結果は、注意の向け方によって各視覚・聴覚の時間周波数情報に対する重み付けが変化し、その結果知覚時間の変化を引き起こしている可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまず当初想定していたよりも広く先行研究を見直すことから始めた。呈示刺激の周期性が知覚時間に与える影響についてはその周期特性との関連など多くの観点から研究されているが、各モダリティにおける影響の違いや処理過程についてはあまり検討されていない。そこで刺激の周期性が知覚時間に与える影響について、視覚だけでなく聴覚についても調べた。そして、同じ周波数で変化する視覚刺激・聴覚刺激を同時に呈示した際、どの刺激に注意を向けるかによって知覚時間が変化することを行動実験から示し、刺激の周期性が知覚時間に与える効果はその刺激に向ける注意に影響を受けることが示唆された。この時間知覚における視聴覚刺激の周期性と注意の相互作用は、知覚時間の視聴覚情報の処理過程について検討するための重要な手がかりになると考えられる。以上の状況を踏まえ、研究の進捗状況はおおむね順調ではないかと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の行動実験から得られたデータをもとにベイズ統計を用いたモデリングを行うことで、視聴覚間の時間情報統合過程における刺激の周期性と注意が及ぼす効果についてさらに検討する。具体的には、視聴覚刺激を同時に呈示した際の知覚時間と、視覚刺激もしくは聴覚刺激のみを呈示した際の知覚時間を比較し、注意による各感覚モダリティへの重みづけの変化を調べる予定である。また行動実験において視聴覚刺激の空間的位置が知覚時間に及ぼす効果を調べることで、視聴覚刺激の周期性と時間情報処理過程の関連についてさらなる検討を行う。
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