研究課題/領域番号 |
19J22534
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 勇稀 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 固気混相流 / 数値シミュレーション / アルゴリズム開発 |
研究実績の概要 |
本年度は大規模固体-流体連成シミュレーションのための数値解析アルゴリズムの開発として、主に抗力を陰的に解く手法のアルゴリズムの評価およびまとめを行った。固体-流体連成シミュレーションにおいては固相粒子を離散要素法(DEM)、流体相を数値流体力学(CFD)によって解析するEuler-Lagrange的手法であるDEM-CFD法が広く用いられる。この手法は大規模な体系や複雑形状壁面を保有する体系の数値解析が困難であるという問題を抱えていたが、近年代表粒子を用いることで大規模化を可能にした粗視化モデルや、符号付距離関数(SDF)および埋め込み境界法(IBM)を用いることで任意形状壁面を構造格子によって解析することを可能にしたAdvanced DEM-CFD法の開発によって大規模かつ複雑壁面をもつ体系の解析が可能になっていた。しかし、筆者らはこれまでに産業用装置のような大規模な体系で大きな流速を用いた際に、これまで知られていなかった計算の不安定性が生じることを発見した。本年度はこの不安定性が固体-流体間の運動量交換を行う流体抗力項に起因して生じるものだと考え、不安定性条件の導出、およびそれを克服するアルゴリズムの開発を行った。この結果は固体-流体連成シミュレーションの工業的応用性を大きく高めるものであり、非常に有用な結果を得ることができたと考えられる。 本年度の研究成果として、3件の国際会議および1件の国内学会で学会発表を行い、国際会議で2件、国内会議で1件の学生賞を受賞した。また、解説論文1報が掲載され、1報の論文が英文学術誌に投稿中、2報の論文が投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は流体抗力に起因する計算の不安定性が生じる原因を明らかにするため、固体-気体混相流においてどのような条件下で計算の不安定性が生じるかを理論的および数値的に明らかにし、また計算の不安定性を克服する新しい数値解析手法の開発を行うことを目的としていた。 これに対し、本年度は流体抗力を陰的に解く手法のアルゴリズムの開発と評価、およびまとめを行った。まず、単純な固定層を仮定し、流体の支配方程式を数学的に検証した。その結果、従来の数値解析手法において、流体抗力がある一定の条件を満たす場合に必ず計算が不安定になるという不安定条件を初めて理論的に導くことに成功した。また、同様の固定層において実際に数値解析を行うことにより、従来の数値解析が理論的に導いた安定条件を超えると計算が不安定になることが確認できた。これにより、従来の数値解析手法では流体抗力が大きい体系を安定して計算することが困難であるということが示された。次に、この不安定性を克服するため、流体抗力を陰的に解く、抗力陰解法のアルゴリズムを作成した。この手法では流体抗力項を半陰的に解くことで上述した従来の数値解析手法に生じる不安定性を克服する。 本年度はこれらの研究成果を3件の国際会議および1件の国内学会で発表し、国際会議で2件、国内会議で1件の学生賞を受賞した。また、解説論文1報が掲載され、1報の論文が英文学術誌に投稿中である。これらのことから、本年度の研究は当初の予定通り進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、流体抗力に起因する計算の不安定性について、その原因と条件、およびそれを克服する手法の開発を行った。次年度以降は、固体-流体連成問題の数値解析におけるもう一つの大きな問題である、粒子径より薄い薄板状の壁面を解像する数値解析手法の開発を行う予定である。この目標を達成するため、次年度はまず粒子径の2倍程度の厚さの薄板を有する体系を正しく計算できる手法の開発を行う。 固体-流体連成シミュレーションの標準的手法であるDEM-CFD法は、大規模な体系や複雑形状壁面を保有する体系の数値解析が困難であるという問題を抱えていたが、これを解決するために符号付距離関数(SDF)および埋め込み境界法(IBM)を用いることで任意形状壁面を構造格子によって解析するAdvanced DEM-CFD法が開発された。しかし、この手法では壁面を1種の流体として扱うため、圧力ポアソン方程式を解いた際に圧力が薄板を貫通し、不自然な流れが形成されることが報告されている。 そこで本研究では、壁面内の格子を圧力ポアソン方程式から除外して計算するアルゴリズムを構築することを目指す。これにより薄板を流体が不自然に貫通する現象を抑制できると考えられる。このアルゴリズムについて、コードの開発を行い、既存手法との比較を行うことにより開発手法の優位性を示す。 次に、上述した手法をadaptive mesh法と組み合わせることにより、粒子径より薄い壁面であっても解像できる手法の開発を目指す。上述した手法は粒子径の2倍程度である流体格子と同じ程度の厚さの壁面であれば解像できるが、それ以上に薄い薄板は解像できない。そこで、壁面付近で小さな流体格子を用いるadaptive mesh法を適用することで、さらに薄い壁面であっても解像することができるシミュレーション手法の開発を行う。
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