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2019 年度 実績報告書

構造の明確な高分子ゲルにおける高分子網目と溶媒分子の動的挙動の解明

研究課題

研究課題/領域番号 19J22561
研究機関東京大学

研究代表者

藤藪 岳志  東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2019-04-25 – 2022-03-31
キーワード高分子ゲル / Tetra-PEG gel / 協同拡散現象 / 高分子網目の拡散係数 / せん断弾性率 / 高分子網目のダイナミクス / 水透過現象
研究実績の概要

高分子ゲル (以下、ゲル) は、高い柔軟性・物質透過性・含水率といったユニークな特徴を持っており、多分野での応用が期待されている。しかし、従来のゲルは不均一な網目構造を有するため、その基礎物性の完全な理解は達成されていない。本研究では、極めて均一な網目構造を持ち、様々な網目構造パラメータを独立に制御可能なTetra-PEG gelを用い、「高分子ゲルにおける高分子網目と溶媒分子の動的挙動の解明」を目指す。具体的には、Tetra-PEG gelの網目構造が、1. 高分子網目の熱揺らぎ (協同拡散現象)、2. ゲル内外にわたる水分子の透過現象、3. ゲル内部における水分子の拡散現象、に及ぼす影響を解明する。理論モデルに基づく各現象の本質的な理解や、各物性値の比較による各現象の相関関係の理解を通して、目的の達成を目指す。
2019年度は、現象1の理解に取り組んだ。高分子網目の協同拡散現象は、高分子網目の拡散係数 (D) により定量的に評価される。D は、浸透体積弾性率 (K)、せん断弾性率 (G)、高分子網目と溶媒の間の摩擦係数 (f) の関数として、D = (K + 4/3G)/f (式1) のように与えられる。網目構造パラメータを様々に変化させたTetra-PEG gelの D と G を測定した結果、式1で予想されるように、D と G の間に線形関係が成立した。さらに、その線形関係から式1を用いて得られた K と f の網目構造パラメータ依存性は、よく知られたスケーリング理論により上手く記述できた。これらは、式1の妥当性を定量的に議論した最初の実験結果であり、国際科学雑誌に英語原著論文として掲載された。また、多くの学会発表を行い、第31回高分子ゲル研究討論会では、最優秀演題賞を受賞した。以上の成果は、ゲルの網目の動的挙動の本質的理解に大きく貢献することが期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度の研究実施計画では、ゲルの物性理解において重要な2つの状態であるas-prepared状態と平衡膨潤状態における高分子網目の協同拡散現象の理解と、平衡膨潤状態におけるゲル内外にわたる水分子の透過現象の理解を目標としていた。
高分子網目の協同拡散現象については、高分子網目の拡散係数 (D) の定義式 (D = (K + 4/3G)/f; K: 浸透体積弾性率, G: せん断弾性率, f: 高分子網目と溶媒の間の摩擦係数) の実験的検証を行った。As-prepared状態・平衡膨潤状態の両方において、上式の妥当性を示すことができ、as-prepared状態における結果は国際科学雑誌に英語原著論文として掲載されたことから、研究は順調に進展したと言える。平衡膨潤状態における結果については、2020年度に論文執筆を進める予定である。
平衡膨潤状態におけるゲル内外にわたる水分子の透過現象は、f により定量的に評価される。当初は、f を水透過実験から見積もる予定であったが、その実験系の確立は達成できなかった。しかし、高分子網目の協同拡散現象の研究を通して、D の定義式から f を見積もる手法を確立した。その手法で f を見積もった結果、as-prepared状態・平衡膨潤状態の両方において、f の網目構造パラメータ依存性は、よく知られたスケーリング理論により上手く記述できることが示唆された。このことから、当初の予定に相当する成果を得られたと言える。得られた結果については、2020年度に論文執筆を進める予定である。

今後の研究の推進方策

2019年度までに、理論モデルに基づく各現象の本質的な理解は概ね達成された。2020年度は、これまでに得られた結果を比較することで、高分子網目と水分子の動的挙動の相関関係の理解を目指す。それだけでなく、高分子網目と水分子の動的挙動の相関関係の理解には、高分子と水分子の相互作用と関連する水和現象が重要になってくると考えられる。Tetra-PEG gelにおける水和現象の理解のために、誘電スペクトル測定を用いた水和数測定を行う。既にある程度のデータが得られており、いくつかの学会発表を予定している。また、本質的な水和現象の理解を目指し、実験・解析・考察を進める。
2019年度に得られた平衡膨潤状態における協同拡散現象、ゲル内外にわたる水分子の透過現象の結果については、論文執筆を進める。さらに、ゲルの網目構造パラメータが高分子網目と水分子の動的挙動に及ぼす影響にとどまらず、溶媒の質や温度が高分子網目と水分子の動的挙動に及ぼす影響など、各現象のより深い理解を目指した研究も進める。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件)

  • [雑誌論文] Shear Modulus Dependence of the Diffusion Coefficient of a Polymer Network2019

    • 著者名/発表者名
      Fujiyabu Takeshi、Yoshikawa Yuki、Kim Junhyuk、Sakumichi Naoyuki、Chung Ung-il、Sakai Takamasa
    • 雑誌名

      Macromolecules

      巻: 52 ページ: 9613~9619

    • DOI

      10.1021/acs.macromol.9b01654

    • 査読あり
  • [学会発表] 高分子網目の協同拡散係数のせん断弾性率依存性2020

    • 著者名/発表者名
      藤藪 岳志、吉川 祐紀、金 俊赫、作道 直幸、鄭 雄一、酒井 崇匡
    • 学会等名
      第31回高分子ゲル研究討論会
  • [学会発表] 高分子網目の協同拡散現象に及ぼす弾性圧の影響2019

    • 著者名/発表者名
      藤藪 岳志、金 俊赫、吉川 祐紀、鄭 雄一、酒井 崇匡
    • 学会等名
      第68回高分子学会年次大会
  • [学会発表] 高分子網目の協同拡散現象に及ぼす弾性圧の影響2019

    • 著者名/発表者名
      藤藪 岳志、金 俊赫、吉川 祐紀、鄭 雄一、酒井 崇匡
    • 学会等名
      第68回高分子討論会
  • [学会発表] 高分子網目の協同拡散現象に及ぼす弾性率の影響2019

    • 著者名/発表者名
      藤藪 岳志、金 俊赫、吉川 祐紀、作道 直幸、鄭 雄一、酒井 崇匡
    • 学会等名
      第67回レオロジー討論会
  • [学会発表] 動的光散乱法により測定した高分子網目の拡散係数の弾性率依存性2019

    • 著者名/発表者名
      藤藪 岳志、吉川 祐紀、金 俊赫、作道 直幸、鄭 雄一、酒井 崇匡
    • 学会等名
      第29回日本MRS年次大会

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公開日: 2021-01-27  

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