ASK1は生体内で多岐の細胞応答を制御する。当研究室では内在性キナーゼに対する新規プルダウン法を開発し、褐色脂肪細胞におけるASK1の新規結合候補因子としてRIPK2を同定した。本研究は、ASK1新規結合因子として同定されたRIPK2とASK1の関係に着目し、RIPK2経路におけるASK1の機能を解析することで、RIPK2経路の詳細な制御機構を明らかにするとともに、その生理学的意義を追究することを目的としている。 昨年度までの研究を通じ、ASK1は褐色脂肪細胞においてNOD-RIPK2経路の活性化を抑制し、下流での炎症性サイトカイン産生を抑制するものの、白色脂肪細胞ではNOD-RIPK2経路の活性ならびに炎症性サイトカインの産生に大きな寄与を示さないことが明らかになっている。褐色脂肪細胞の主要な機能の一つにUCP1 を介した熱産生が上げられる。炎症環境下において褐色脂肪細胞ではUCP1や他の褐色脂肪細胞マーカーの発現を抑制し、褐色脂肪細胞における熱産生能を低下させることが報告されている。そこで我々はASK1がNOD-RIPK2経路の活性化を抑制することで褐色脂肪細胞の機能維持に貢献しているのではないかと考え、β3受容体依存的な褐色脂肪細胞マーカー発現誘導にNOD-RIPK2経路活性化がパラクライン的に与える影響を検証する実験系を構築した。この結果、ASK1の発現抑制により、NOD-RIPK2経路活性化により見られる褐色脂肪細胞マーカーの発現抑制が軽減されることが示された。ASK1はPKA-ASK1-p38経路の活性化を通じ褐色脂肪細胞での熱産生を正に制御することが報告されている。本研究ではASK1が炎症環境下において褐色脂肪細胞の機能維持に寄与することが示されたといえ、褐色脂肪細胞におけるASK1の多元的な機能が明らかになったと言える。
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