研究課題
植物はナトリウム蓄積による生育阻害を回避するために根から環境へナトリウムイオンを排出するが、体内のナトリウムイオンがどのように輸送され環境へ排出されるのかが明らかになっていない。モデル植物のシロイヌナズナでは膜輸送体SOS1がナトリウム排出に関わるとされており、本研究ではその関与を明らかにするため、SOS1欠損株におけるナトリウムの動態を放射性トレーサー法により解析した。SOS1欠損株はCRISPR/Cas9システムを用いて作製した。植物に投与したナトリウムの放射性同位体は、シロイヌナズナ野生型株よりもSOS1欠損株の根で多く蓄積する様子が確認され、SOS1が根から環境へのナトリウム排出を担うことを示唆した。続いてナトリウムの排出経路を考察するため、特異抗体を用いてSOS1タンパク質の局在を解析する免疫組織染色を実施した。作製したSOS1特異抗体は根の切片であらゆる細胞に存在するタンパク質を検出し、SOS1が根の内側の層から外側の層まで、また根端から根の成熟域までの広範囲にわたって発現することを示唆した。このような広範囲の発現部位の中で、実際にナトリウム排出の機能を果たすSOS1の発現部位を特定するためには、SOS1を様々なパターンで発現する組換え植物を作製し、それら植物のナトリウム排出能を評価することが有効であると考えた。そこで当該年度は、多様な部位において発現を誘導する遺伝子プロモーターのセットを用い、SOS1を様々なパターンで発現する植物の作製を進めた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では植物のナトリウム輸送様式について、作物の中で比較的耐塩性が高いオオムギで観察される根から地上部へのナトリウム輸送制御にも着目し、実験を遂行していた。しかしパンデミックの影響で、共同研究先のタスマニア大学で実施予定だった実験が遂行できず、その分国内で行える研究を進めることにした。シロイヌナズナ根におけるナトリウム排出について、当該年度は作製したSOS1特異抗体を用いて根の切片で蛍光標識を観察する免疫組織染色を実施し、これまで明らかにされていなかった詳細なSOS1のタンパク質局在を解析した。また、ナトリウム排出に関するSOS1の機能部位を明らかにするための組換え植物の作製を進めた。マグネシウム輸送体MRS2については、MRS2が環境中のマグネシウムイオン濃度に応じて遺伝子発現制御によらないイオン吸収制御を行うという仮説を立てており、MRS2タンパク質の構造を電子顕微鏡法により解析し、マグネシウムイオン濃度によるタンパク質構造変化の有無を確認する予定である。当該年度は引き続き、タンパク質構造解析の準備を進めた。
ナトリウム排出機構については、輸送体SOS1を様々なパターンで発現する植物中のナトリウム動態を放射性トレーサー法により解析し、ナトリウム排出に必要なSOS1の発現部位を特定する。マグネシウム吸収制御機構については、輸送体MRS2のタンパク質構造解析を行い、MRS2がマグネシウムイオン濃度に応じた輸送制御機構を有するかどうか検証する。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Frontiers in Plant Science
巻: 11 ページ: 563
10.3389/fpls.2020.00563