研究課題/領域番号 |
19J22754
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水野 隼斗 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 光開裂リンカー / 局所的薬剤送達 / 薬剤担持型バルーン / 冠動脈狭窄 / 光応答性 / 高分子ミセル / 核酸医薬送達 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、外部刺激に応答して薬剤をリリースする光応答性薬剤担持型バルーン(PR-DCB)システムの物性、機能性、そして汎用性の向上を目指している。システムの概念実証のために蛍光色素Cy5を、光開裂部位PCを介してバルーンのモデルであるラテックスビーズに修飾することでCy5-PC-Latexを作成した。種々の実験結果より、Cy5-PC-Latexは、従来のDCBに比べておよそ87倍の薬剤送達効率を有する可能性が示唆された。一方で、1.薬剤担持上限がバルーン表層の官能基の数に依存する 2.薬剤自体の疎水性により血中タンパクが凝集し、血栓形成のリスクがある 3.PCを直接薬剤に結合することから、薬剤の失活が見込まれる、といった本システム固有の問題を抱えている。 Cy5-PC-Balloonにて見られた欠点を克服すべく、薬剤をミセルに内包して光開裂部位を介してバルーンに搭載する、Cy5@Micelle-PEG4-PC-Balloonを提案した。ミセルをバルーン表面に搭載するためのリンカーを二種類検討したところ、DBCO-PEG4-ANPリンカーの方がより多くミセルを担持できることが示された。このリンカーを用いて実際にバルーンにミセルを担持させたところ、従来DCBの薬剤搭載量に比べて約8倍の搭載量である。また、これらの薬剤が、Cy5-PC-Latexを用いた実験で見られた効率で送達可能であると仮定すると、従来DCBのおよそ700倍の薬剤が患部に届く計算となる。この結果より、提案プラットフォームを用いることで薬剤送達量の飛躍的な向上が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度上半期は新型コロナウイルスの蔓延により、実験の中止を余儀なくされた。下半期は遅れを取り戻すべく、光開裂リンカーの合成や動物実験の予備実験に注力した結果、動物実験の予備実験まで進めることができた。本年度予定していたラットを用いた動物実験は施設等の関係もあり実施できなかったものの、次年度予定していたmRNA内包ミセル作成のためのポリマー合成を優先して行うことができたため、進捗状況はおおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に行ったCy5@Micelle-PEG4-PC-Balloonを用いたミセルの放出試験では、光照射によってミセルが放出されることが確認された。一方で、リンカー添加濃度が高くなるほど放出効率が低下することが分かった。これは、リンカー添加濃度が高いほど、バルーン表面のリンカー密度が増加し、ミセルとの間に複数の結合が生じたことが原因であると考えられる。ミセルーリンカー間で複数の結合が存在すると、その全てが開裂するまではミセルが放出されないために、放出効率は低下する。リンカー添加濃度を下げることで結合点数を抑えることが可能になるが、同時にミセルの担持量の減少が想定される。以上のように、ミセルの放出効率と担持量は、リンカー添加濃度に依存したトレードオフの関係を持つことが考えられる。2021年度は、このトレードオフに対して最適化を行い、高い放出効率と担持量の実現を目指す。さらに、最適化を行ったバルーンを用いて、ラット腹部大動脈でのCy5@Micelle-PC-Balloonのミセル送達効率評価、及び臨床試験の前段階として、ブタ冠動脈を用いた安全性評価を行う予定である。 並行して、血中安定性の乏しい核酸医薬内包型ナノキャリアを本提案プラットフォームに搭載するスキームの確立を目指す。概念実証として、2021年度はメッセンジャーRNA (mRNA)を内包したミセルを作成し、キャラクタライゼーションを行う。作成したミセルを光開裂リンカーを介してバルーン表面に搭載し、in vitroでの機能性評価、及びラット腹部大動脈を用いたin vivo環境にてmRNAの送達効率を評価する。
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