研究課題/領域番号 |
19J22776
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 有沙 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | CRISPR/Cas / HypaCas9 / Armh3 |
研究実績の概要 |
本研究では、CRISPR/Casシステムの新規ツールの開発および機能評価と、その技術を利用した遺伝子改変動物の作製・遺伝子機能の逆遺伝学的な解析に取り組んでいる。本年度は、初期胚発生におけるArmh3遺伝子の重要性に着目し、自身で作製した変異導入マウスの表現型を解析することで、Armh3遺伝子のin vivoでの機能解析を進めた。 Armh3タンパク質はゴルジ体に局在し、PI4KBやGbf1といった因子と相互作用することが報告され、ゴルジ体の機能に関わる分子として近年注目されはじめたものの、その具体的な分子機能やノックアウトによって生体にどのような影響を及ぼすかは未だ十分に解明されていない。本研究ではこれまでに、全長689アミノ酸のArmh3のC末端側222アミノ酸を欠失させた変異導入マウスの作製と系統化に成功している。欠失領域にはあらゆる生物種に保存された機能未知ドメインDUF1741が含まれるため、遺伝子機能の欠損が生じると考えられる。このArmh3変異導入系統について、ヘテロ欠損個体同士を交配させた結果、得られた産仔は全て野生型アリルを持っており、ホモ欠損個体は胚性致死であることが示された。さらに、Armh3欠損胚の退行時期を特定するため、着床前後の初期胚で同様の解析を行った。その結果、胚盤胞期や胎齢7.5日ではホモ欠損胚が認められた一方で、胎齢9.5日では野生型アリルを持つ胚のみ認められた。よって、Armh3欠損胚は、着床後に発生を停止し、胎齢7.5日から9.5日までの間に胚吸収が起こっていることが明らかとなった。今後は、胚の退行が進行していると考えられる胎齢7.5日前後のArmh3欠損胚について、組織切片を作製して詳細な形態観察を行うとともに、個々の細胞のゴルジ体機能が破綻しているか解析し、胚葉形成への影響や胚発生の停止に至るメカニズムを解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、主に自身で作製した変異導入マウスの解析に取り組んでいる。着床後の早い段階の胚について、異なる系統をレシピエントとして胚移植を行い、系統間多型を利用することで極めて精度の高い遺伝型の判定を行うというユニークな系を確立した。この方法を利用することで、これまで不明であったArmh3欠損胚の退行時期の絞り込みに成功している。さらに、次年度のより詳細な機序の検討に向けて、内在性遺伝子の解析系やレポーター系を立ち上げつつあり、次年度の研究成果も期待できる。 また、1年目に報告した精密なゲノム編集が可能な系から得られた知見を集積し、本年度は一報の著書の分担執筆を報告している。 以上の成果から、上記の通りの研究進捗状況と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
既報において、Armh3はゴルジ体に局在し、Gbf1をリクルートする機能を持つことが示唆されており、Armh3をノックアウトした培養細胞ではGbf1のゴルジ体への局在化が阻害され、その結果としてゴルジ体の膜脂質PI4Pの産生量が減少することが報告されている。PI4PはクラスリンアダプターやGolph3など小胞形成に関わる分子の足場として機能することから、Armh3のノックアウトによって小胞輸送などのゴルジ体機能が破綻することが胚性致死を引き起こすと予想される。そこで、本研究では今後、胚の退行が進行していると考えられる胎齢7.5日前後のArmh3欠損胚を回収し、胚全体の形態観察を行うとともに、個々の細胞でGbf1の局在不全やPI4P産生量の減少といった表現型が認められるか検証する。さらにその下流因子であるAP-1やAP-3、GGAなどのクラスリンアダプターやGolph3の局在を観察し、ゴルジ体機能の破綻を個体レベルで証明する。また、退行時期のArmh3欠損胚において、アポトーシスの検出や分化マーカーの発現解析を行うことで、Armh3の欠損によるゴルジ体機能の破綻が胚葉形成にどのような影響を与えるのか解析し、胚発生の停止に至るメカニズムを解明する。
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