本研究の目的は,ICUAW発症の主要因であるメカニカルサイレンシングを効果的に防止する治療法を確立することである.これまで我々は,メカニカルサイレンシングを防止する手段として,神経-筋電気刺激(ES)療法に着目し,等尺性収縮(ISO)でのESを毎日負荷すると,脱神経(DEN)に伴うメカニカルサイレンシングによる筋力低下が一部防止されることを明らかにした. 本年度は,本学のICUに入室した重症疾患患者に対し,ISO-ESの有効性を検討する予定であった.しかしながら,Covid-19の流行に伴い本学のICUでの介入実験の実施が困難となった.そこで当初の予定を変更し,実験動物を用いて,脱神経(DEN)に伴うメカニカルサイレンシングにより生じる張力低下のメカニズムをより詳細に検討することとした. これまでにDEN筋では,DEN後早期から生じるNa+チャネル障害とその後遅れて生じる筋原線維機能障害により著しい張力低下が生じることが報告されている.しかしながら,DENが骨格筋の収縮過程におけるその他の因子に与える影響に関しては,これまでに検討されていない.したがって我々は,終板を含む筋細胞膜は除去されるが,横行小管膜や筋小胞体などの構造体は保持されるメカニカルスキンドファイバーを用いて,DEN後早期に生じる張力低下の要因をより詳細に検討した.その結果,DENに伴うメカニカルサイレンシングによる張力低下には,ジヒドロピリジン受容体(DHPR)自体あるいはDHPRとリアノジン受容体(RyR)との興奮収縮連関障害が関与することが新たに明らかとなった.
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