本研究では、赤外分光測定を中心とした様々な分析手法を駆使し、これまでに研究されてきた典型的なロドプシンとは本質的に異なる未解明な分子機構を明らかにすることを目的としている。本年度の研究成果の概要を以下に記述する。 48C12はメタゲノム解析から発見されたロドプシンで、アミノ酸配列が既知のどのロドプシンとも相同性が低い。この48C12の同位体標識試料について、質量分析測定による、試料の同位体標識効率の評価を試みた。多くの条件検討の末、当研究室史上初めて膜タンパク質の質量分析測定から試料の同位体標識効率の算出に成功した。この結果から48C12の初期中間体形成時の光反応構造変化だけでなく、照射された光エネルギーの蓄積メカニズムの独自性について示唆を与えることができた。これらの研究成果をJ. Phys. Chem. B.に発表した。 KR2とは初めて発見されたナトリウムイオンポンプ型ロドプシンである。KR2のフィルム試料は、乾燥するとその吸収波長が長波長シフトする。紫外可視吸収スペクトルやラマン散乱スペクトルの解析より、水和量の変化によってレチナール発色団やその周辺の構造変化を明らかにしその構造変化モデルを構築した。これらの結果について、現在論文投稿準備の最終段階にある。 さらに、KR2の光反応サイクル中の構造変化についてより詳しく調べるために時間分解赤外分光測定も継続して行っている。異なる塩濃度における光反応サイクルの速度解析に加え、同位体や変異体を用いて観測されたバンドの帰属を行い、新たなナトリウムイオン輸送モデルの構築ができた。この研究成果について、論文発表準備段階にある。さらに、高波数領域の測定でも、いくつかのバンドの観測に成功し後期中間体におけるタンパク質内部の水素結合ネットワーク構造について示唆を与えることができた。この内容についても論文発表準備段階にある。
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