今年度は、類人猿における身体構造の理解に関する研究成果をまとめた論文を改稿・再投稿し、国際学術誌に受理された。構造的に可能な運動と不可能な運動のアニメーションを、チンパンジー・ボノボに提示し、そのときの視線を赤外線式アイ・トラッカーをつかって測定した研究であった。類人猿がどの程度、身体構造を理解しているのかについては断定的な結論は導くことができなかったが、リアルな3Dアニメーションの使用や、類人猿の瞳孔径測定など実験手法の観点から示唆を与えた。 また、チンパンジーにおける音声コミュニケーションに関する研究成果をまとめた論文を改稿・再投稿し、国際学術誌に受理された。録音したチンパンジーの採餌声・警戒声を再生するとともに、それらと関連する果物・ヘビの動画をチンパンジーに対提示し、そのときの視線を測定した。警戒声を聞いているときに、チンパンジーがヘビの動画をより長く見ることから、チンパンジーが警戒声を聞いたときに自発的にヘビと結びつけることができることが示唆された。 これらの研究成果と、アイ・トラッカーと赤外線サーモグラフィを用いてチンパンジーが他者のけがに対してどのように反応するかを調べた過去の研究をもとに、学位論文を執筆・提出し、学位を取得した。チンパンジーにおける他者理解の能力について、認知・情動基盤に焦点を当てた。 そのほか、タッチパネル実験によって、チンパンジーの学習能力について調べる研究をおこなった。とくにその時間特性について、強化学習理論をもとに行動課題によって明らかにする研究である。
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