研究課題/領域番号 |
19J22910
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
亀川 凜平 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | メッセンジャーRNA / シリカゲル / 経口投与 / ポリイオンコンプレックス / マクロファージ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、 mRNA医薬の応用範囲を広げるため、過去に報告例のないmRNAの経口投与による腸への送達を実現することである。mRNAを経口投与するには、消化管を通じて豊富に存在する分解酵素や、胃の強酸環境による分解からmRNAを保護するキャリアを構築する必要がある。さらに、その経口mRNAキャリアには、消化酵素や胃の強酸環境といった過酷な環境下でも安定して目的の細胞に到達する安定性が求められる。 本研究では、消化管環境で安定なマテリアルとしてシリカゲルに着目した。シリカゲルは、シロキサン結合のネットワークにより密な構造を持ち、かつ、シロキサン結合は強酸や消化酵素に対して安定である。これまでの研究で、正に帯電したポリマーとmRNAからなるナノ粒子をシリカゲルで被覆したナノ粒子(シリカゲル被覆PIC)の調製方法の確立を行い、分解酵素存在下での高いmRNA保護能を示すことに成功した。当該年度においては、経口投与による腸への送達可能性をさらに検証するため、胃酸での粒子の安定性を検証した。ヒトの胃酸pHであるpH1.2の強酸水溶液にシリカゲル被覆PICを一定時間静置し、粒径の変化を測定したところ、大きな粒径の変化は見られず、本粒子の安定性が示された。また、シリカゲル被覆PICは強酸環境中でmRNAを加水分解から保護する機能を併せ持つことも明らかになった。さらに、本研究で対象とする腸関連モデル疾患の潰瘍性大腸炎には、マクロファージ(Mφ)が深く関与することが知られる。このことから、本シリカゲル被覆PICを培養Mφに添加したところ、被覆なしの場合に比べて高いmRNA機能を示すことがわかった。以上の結果は、シリカ被覆PICが経口投与する上で優れた機能を持つことを示唆するものである。来年度は実際にマウスへ経口投与することにより、腸での機能を検証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度において得られた成果をもとに、当該年度では経口投与に求められる機能を検証した。具体的には、経口投与の大きなハードルの1つである胃の強酸環境での安定性を確かめた。その結果、シリカゲル被覆PICは強酸環境でも大きな粒径変化を示さず、優れたコロイド安定性を持つことが明らかになった。また、mRNAは強酸環境で加水分解されることも研究の過程に明らかになり、研究開始当初は想定していなかった安定性上のさらなる課題があることがわかった。しかしながら、興味深いことに、mRNAをシリカゲル被覆PICに内包することによって強酸環境での加水分解も大幅に抑制されることがわかり、シリカゲル被覆PICの優れた機能が示される形となった。 また、本研究の対象モデル疾患である潰瘍性大腸炎に深く関与するマクロファージにおけるmRNA機能評価も行なった。培養マクロファージ細胞株であるRAW264.7に対してシリカゲル被覆PICを添加したところ、被覆なしPICの場合に比べて高いmRNA機能発現が得られた。このことは、マクロファージに高発現するスカベンジャー受容体によりシリカゲル被覆PICが認識されて取り込まれていることに由来すると想定された。そこで、当受容体の阻害剤として知られるデキストラン硫酸存在下でmRNA取り込み量を定量したところ、デキストラン硫酸の濃度が増大するにつれて取り込み量が減少することがわかった。さらに、当受容体が発現していないコントロールとして結腸がん細胞株(CT26)に対して同様の実験を行ったところ、マクロファージを用いた際に見られたmRNA機能発現の増大は確認されなかった。以上のことから、本シリカゲル被覆PICはマクロファージ特異的にmRNAを送達できる可能性が示唆された。 以上より、当初予定していなかった結果も含め予定通りに進行していることから、本研究課題は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、シリカゲル被覆PICをマウスへ経口投与することにより、腸での機能発現の実現可能性を検討していく。先述の進捗と並行して、既に潰瘍性大腸炎モデルマウスの作製法、およびマウスへの経口投与方法を確立・習得済みである。レポーター遺伝子としてのルシフェラーゼをコードしたmRNAを用いてシリカゲル被覆PICを調製し、健常マウスと潰瘍性大腸炎モデルマウスに対して経口投与する。一定時間後に腸を摘出・ホモジナイズし、ルシフェリンと混合したのち発光強度を定量することで、腸における機能発現を検証する。ついで、モデルマウスにおいて機能発現が得られた場合、その機能が炎症部位のマクロファージで生じたものかを検証する。具体的には、使用するmRNAを蛍光標識し、シリカゲル被覆PICを経口投与したのち腸を摘出し、凍結切片を作製後マクロファージを免疫染色することによって、マクロファージとmRNA由来の蛍光の共局在の有無を確認する。さらに、予定通り結果が得られた暁には、抗炎症性サイトカインをコードしたmRNAを用いて、治療効果の検証まで行う予定である。
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