ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の出芽はウイルスのGagタンパク質のC末端領域に存在するp6ドメインが、ESCRTタンパク質群を利用することで行われる。このタンパク質群の構成因子であるTSG101とALIXは、HIV-1の出芽を行う上で重要な役割を担い、p6ドメインに存在するP(T/S)APモチーフがTSG101と、YPxLモチーフがALIXとそれぞれ相互作用して出芽する。しかし、それぞれのモチーフが、生体内でのウイルスの複製にどれほど重要であるかは不明である。また、これまでに明らかになってきたHIV-1の出芽機構については、主にグループMサブタイプBのウイルスを基に行われた研究によるものであり、他のHIV-1サブタイプでも同様な機構で出芽しているかは不明である。さらに、HIV-1の出芽機構の進化の過程、特に、世界的に流行しているサブタイプCの出芽機構の進化は明らかになっていない。以上の背景を踏まえ、本研究では、生体内でのHIV-1の出芽機構の重要性、および、HIV-1サブタイプ間の出芽機構の違いを明らかにすることを目的とした。 昨年度の研究結果に加え、自然発生的にYPxLモチーフを失くしている感染性ウイルス産生クローンを用いたヒト化マウスによる実験から、このウイルスはTSG101を介したP(T/S)APモチーフでの出芽のみで複製できた。さらにP(T/S)APモチーフを重複させることのウイルス学的な理由を調べるために、世界的流行しているサブタイプCのこのモチーフを重複している感染性ウイルス産生クローンで検証した。その結果、生体内で優勢に増殖することが明らかとなった。 本研究は、HIV-1グループMの各サブタイプは、ヒト集団に広がる過程で、出芽機構を適応させ、YPxLモチーフの欠失と、P(T/S)APモチーフの重複という、2つの進化を独立に経験していることを示唆した。
|