研究課題/領域番号 |
19J22988
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
柿元 百合子 山形大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | オルガネラ間コンタクトサイト / ERMES / 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
真核細胞には様々な機能を持った膜構造あるオルガネラが存在している。近年,異なるオルガネラ間がタンパク質複合体によって結合し,コンタクトサイトを形成する事が明らかになってきた。特に哺乳類細胞は,異常な構造をなったタンパク質が小胞体内に蓄積することで誘導されるストレス状態 (小胞体ストレス) に細胞が陥ると,ミトコンドリアと小胞体間の結合領域が増加することが報告されている。しかし,小胞体ストレス時にミトコンドリアと小胞体間の結合領域が増加するメカニズムや生理的意義は未解明である。そこで本研究では,ERMES複合体がこれらコンタクトサイトを形成していることが分かっている出芽酵母細胞に着目し,メカニズムや生理的意義の解明を目的とした。 これまでに,小胞体ストレス時にERMES複合体のクラスター構造が解離することを見出している。また,小胞体ストレス時にERMES複合体クラスター構造が解離しない変異株では,小胞体ストレスに強い感受性を示した。加えて,この変異株では,小胞体ストレス緩和に重要な小胞体の伸長が抑制された。これらの結果は,小胞体ストレス時のERMESドット数の増加は,小胞体ストレスを緩和するための現象であることが示唆している。 続いて,小胞体ストレス時にERMES複合体クラスター構造が解離するメカニズムを検討した。ERMES複合体と相互作用するタンパク質Gem1が欠損した酵母株では,小胞体ストレス時にERMESクラスターの解離が抑制された。Gem1が小胞体ストレス時のERMES複合体クラスター構造の解離に関与している可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では新規オルガネラ間結合因子の同定とその生理機能の解明が目標である。これまでに,出芽酵母におけるミトコンドリア-小胞体間結合因子であるERMES複合体が,小胞体ストレス時に解離することを独自に見出している。よって,この反応に関与する因子の探索や生理機能の解明を目指した。具体的には小胞体ストレス環境下でミトコンドリア-小胞体間におけるリン脂質輸送速度をパルスチェイス実験などにより測定し,ERMESが解離する条件ではこれらのオルガネラ間でのリン脂質輸送が抑制されることを見出した。さらに小胞体ストレス環境下でもERMESが解離しにくい変異株の解析を通して,オルガネラ間リン脂質輸送の抑制が,小胞体ストレス環境下での小胞体の膜の拡大に重要であることを示した。これらの結果から,小胞体ストレス環境下におけるERMES複合体の解離は,小胞体ストレスの軽減に重要な役割を持つことが示唆された。 さらにこの小胞体ストレス時のERMES複合体の解離に重要な因子を探索した。その結果,ERMES複合体のサブユニットとして知られるGem1が欠失した酵母株では,小胞体ストレス時のERMES複合体の解離が起きにくいことを見出した。今後,ERMES複合体の解離におけるGem1の役割を解析していくことで,オルガネラ間リン脂質輸送機構の分子メカニズムや,その調節のメカニズム,さらには小胞体ストレス応答の新しい経路の発見につながることが期待される。以上の結果から,研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,小胞体ストレスの緩和にERMES複合体のクラスター構造の解離が重要であることが分かってきた。しかし,クラスター構造が解離する分子機構は未解明であるため,本年度はこれを解明することを目的とする。特に,ERMES複合体のサブユニットであるGem1がクラスター構造の解離に関与する可能性を見出しており,小胞体ストレスにおけるGem1の機能解析を進める。 はじめに,Gem1が小胞体ストレス時のERMESクラスターの解離に関与するのか生化学的に解析する。Gem1を過剰発現した酵母株を作成し,ERMES複合体の解離やクラスターサイズが変化するのか蛍光顕微鏡を用いて検証する。また,野生株において,小胞体ストレス時のERMES複合体のサイズが小さくなっているのかを,密度勾配遠心法を用いて確認する。さらに,Gem1が欠損,過剰発現している株においても同様に,ERMES複合体のサイズが野生株と比較して変化しているのか検証する。 続いて,Gem1が小胞体ストレス時のリン脂質輸送,細胞増殖や小胞体の伸長に影響を与えるのを検討する。これまでに,小胞体ストレス環境下におけるERMES複合体の解離は,小胞体ストレスの軽減に重要な役割を持つことが示唆された。このようなERMES複合体が担う,小胞体ストレスの緩和にGem1が関与しているのか検証する。具体的には,Gem1を欠損,過剰発現した酵母株を用いて小胞体ストレスへの感受性や小胞体ストレス時の小胞体の伸長を野生株と比較し,変化するのか検証する。さらに,パルスチェイス実験を用いて,小胞体ストレス時のリン脂質輸送をモニターし,クラスター解離が抑制されるGem1欠損株においてリン脂質輸送能が変化するのか検証する。
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