研究課題/領域番号 |
19J23034
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 七恵 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 存在 / 自己 / 時間 / 可能性 / 非力さ / 教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、私たちが「存在する」という根源的な事実にまでさかのぼって、教育において「他者を受け入れる」ことの成り立ちを探究するものである。 初年度である2019年度は、ハイデガーの自己論と時間論をとりあげて、「自己存在」と、その「時間性」という観点から、教育における子どもと大人の「共存在」を思考するための新たな視座を模索した。 自己論の探究では、(1)ハイデガーの「自己存在」が、よく誤解されるように単に孤立した「個人」のあり方を意味するのではないこと、(2)むしろ、他者およびものと関わりながら在るあり方をいうこと、(3)さらに、それは同時に、自分がどうあるかという「存在」の「可能性」との関わりでもあること、(4)こうした「自己存在」のあり方は、他者・ものおよび、自らの「存在」の「可能性」との関係の中で「自立していく」という、教育的「共存在」の問題につながること、以上の4点を明らかにした。 時間論の探究では、(1)ハイデガーの「時間性」は、単に、人間が自分が在ることの意味を「自ら」構築していく時間を意味するのではないこと(2)むしろ時間とは、確かな根拠なく自らの「存在」に投げ込まれ、いつとも知れない死の可能性にさらされているという自らの「存在」の「非力さ」を引き受けるあり方を示していること、(3)しかしこの「非力さ」は孤独なものではなく、私たちの誰もがもつ「存在」の事実であり、それこそが「私たち」の間に同時的な時間経験を可能にしていること、(4)このような時間経験からみれば、教育の時間もまた、単に子どもに内在的な過程ではなく、また、特定の教育現場だけに閉じたものでもなく、子どもも教育者も教育学者をも含めた「私たち」の時間経験であること、(5)そのため、臨床教育学的な「共存在」の問題につながること、以上の5点を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハイデガーの自己論と時間論の読解を教育的・教育学的な「共存在」の問題につなげ、それぞれを論文にまとめることができたため。また、本年度の研究を通して、成長・発達・変容といった教育・教育学における事柄を、ハイデガーの自己論・時間論に即し、教育的・教育学的な「共存在」の問題として捉え直していくという展望が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、ハイデガーの自己論・時間論から内在的に見出だされた教育・教育学とのつながりを、教育・教育学の側からも探っていく必要がある。具体的には、1900年代以降、ドイツを中心に展開された「精神科学的教育学」の「解釈学」の手法や、そこでの自己論・時間論の流れに対して、ハイデガーの思想が開く新たな可能性を模索していく必要がある。そのため、本年度同様、学会発表と論文投稿を重ね、論理を構築していく。
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