本研究は、哲学者ハイデガーの「共存在」概念を手がかりに、子どもと大人がその存在を無条件に受け入れ合い、共に在ることの成り立ちを解明し、かつ支える「臨床教育学」理論の構築を目指すものである。最終年度である本年度は、ハイデガーの解釈学に即して、解釈者の実存における「変容」という主題に焦点化することで、子ども-大人関係をめぐる臨床教育学の解釈学的手法の諸課題を整理し、研究のまとめとした。下記がその課題と展望である。 (1)物の経験を介した子どもの世界理解の変容:物を対象化するのではない子どもの日常経験の中に、子どもを対象化しないような解釈者(大人)の実存課題が含まれる。/(2)死の問題から照らされる子どもの自己変容:死の可能性から照らされる人間存在の自立性と個性の根拠が、子どもの自己変容を支える大人のよるべなさへの解釈の課題ともなる。/(3)発達の内的体験を相対化する実存の変容:子どもにおける発達の内的体験は、それを解釈する大人の実存との間で、時間軸が交差する際の相互変容の課題を含む。/(4)自己・他者・世界関係における教育関係の変容:子どもと大人は、互いに自己・他者・世界関係の変容の中にあるが、大人による子ども理解や教育関係の解釈が、常にその変容に作用する点に、共存在の課題がある。 上記(1)~(4)を柱とした臨床教育学理論により、種々のフィールドにおける教育関係の解明と発展に資することが、この課題に引き続くべき研究主題である。
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