研究課題/領域番号 |
19J23053
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
一色 遼大 早稲田大学, 先進理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ニッケル / カップリング反応 / 芳香族エステル / 有機化学 / 有機金属化学 |
研究実績の概要 |
炭素-炭素結合を自在に切断し新たな炭素-炭素、炭素-ヘテロ元素結合へと作り変える手法は革新的な分子合成技術であり、より直感的な精密有機合成を実現する「ツール」と成り得る。 本研究は、汎用化合物の有用化合物への多様な誘導化を志向し、遷移金属触媒を用いた「炭素-炭素結合切断型カップリング反応」を開発することを目的としている。具体的に、本研究では汎用官能基であるエステルのsp2炭素-炭素結合を標的とした新規変換反応の開発を行う。当研究グループではこれまでに芳香族エステルをアリール化剤として用いる脱カルボニル型カップリング反応を多数報告している。当特別研究員は芳香族エステルを用いた変換反応を非線形的に展開すべく新たな形式の反応の開発に着手した。 その結果、昨年度に独自に開発したニッケル触媒を用いることで、芳香環上の官能基を異なる芳香環上に自由に移動させる「官能基転移反応」という新たな概念を確立した。芳香族エステルと芳香族ハロゲン化物やフェノール誘導体を反応させ、芳香族エステルのエステル骨格を異なる芳香族化合物上に移動させる「エステル転移反応」の開発に成功した。 今年度、当特別研究員は、同様の触媒存在下、芳香族スルフィド化合物と種々のアリール求電子剤とを反応させると「スルフィド転移反応」が進行し種々の芳香族化合物をスルフィド化できることを見出した。本反応は悪臭や触媒の被毒の原因となるチオール類を使用しない新たなスルフィド化反応としての利用が期待される。また、開発した反応を利用し医薬品化合物の誘導体化にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度、当特別研究員は芳香族エステルのエステル骨格を芳香族ハロゲン化物やフェノール誘導体に移動させる「エステル転移反応」を報告した。本反応の開発を通じて、「脱カルボニル型カップリング」「非脱カルボニル型カップリング」に限られていた芳香族エステル化合物の触媒的変換反応を「官能基転移反応」という新たな研究分野へ展開した。 今年度、当特別研究員は「官能基転移反応」の拡張を志向し、芳香族スルフィドのスルフィド骨格を芳香族エステル上へ移動させる「スルフィド転移反応」の開発に成功した。独自に開発したニッケル触媒を用いることが本反応の進行の鍵である。また、種々検討の結果、芳香族エステル以外にも芳香族ハロゲン化物やフェノール誘導体など数多くの芳香族化合物へ適用できることを示した。さらに、本反応を用いた医薬品化合物や天然物などの誘導体化にも成功しその有用性を示した。この官能基転移反応は報告例が少ない新興研究であり反応機構など不明な点が多く残されていた。そこで、当特別研究員は種々の反応機構解明研究を行うことで本反応の反応機構を提唱した。二種類の酸化的付加錯体を一挙に生成させ、その錯体間で官能基交換が進行する触媒の使用が本反応の鍵であるとわかった。本研究で得た知見は今後の官能基転移反応の拡張につながる。 また、芳香族エステルを用いた脱酸素型カップリング反応の開発や反応条件検討を機械学習により最適化する手法の開発といった研究にも携わり各研究成果を原著論文として報告した。 以上のことから本研究課題は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、「官能基転移反応」に適用可能な化合物の拡張を行う。また、「官能基転移反応」をもとに「官能基交換反応」の開発に着手する。 スルフィド転移反応の機構解明研究により本反応は二種類の酸化的付加錯体を生成することが進行の鍵となることがわかっている。そこでまず初めに、当研究グループで開発したNi触媒により切断可能な官能基を調査する。切断可能な官能基を有する芳香族化合物と芳香族ハロゲン化物やフェノール誘導体、芳香族エステルとを反応させることで官能基転移反応が進行するかを調査する。 また、転移可能な官能基の調査と並行して官能基交換反応の検討も行う。これまで報告した官能基転移反応や従来のカップリング反応では化学量論量以上の廃棄物を共生するという課題があった。官能基の交換反応が進行すれば高い原子効率で一挙に二分子の構造修飾が可能になるため有用性が高い。平衡反応となる官能基交換の平衡をいかに生成物側に偏らせるかが本反応の実現の鍵となる。基質の電子状態や立体構造、用いる触媒を最適化することで適切な反応場を構築することで官能基交換反応の実現を目指す。
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