オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)は、オリゴデンドロサイトに分化し髄鞘形成に寄与する一方で、病態時には機能変化しサイトカイン放出等を介して病態形成に関与することが示唆されている。本研究では、炎症性脱髄疾患である多発性硬化症におけるOPCの役割の解明を目的とし、1.多発性硬化症モデルマウスにおけるOPC特異的除去検討、2.多発性硬化症モデルマウス脊髄からのグリア細胞分取およびRNAシーケンスを行った。以下、上記研究内容の実施状況について報告する。
1. 昨年度に引き続き、確立したPDGFRα陽性OPC特異的除去法を用い、多発性硬化症モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスにおける臨床スコアを評価した。EAE発症1日後から8日後までジフテリア毒素を投与してOPCを除去した。Ctrl群と比較して、OPC除去群では臨床スコアが有意に抑制された。また、OPC除去群の脊髄では、臨床スコア低下と相関して、脱髄の抑制や末梢免疫細胞浸潤の抑制、末梢免疫細胞の浸潤や再活性化に関わるサイトカインの発現低下が認められた。これらの結果から、EAE急性期のOPCが病態悪化に寄与する可能性が示唆された。 2. 前年度に確立した成体マウス脊髄からのグリア細胞(OPC、ミクログリア、アストロサイト)分取法を用いて、Ctrlマウス、EAE発症前、急性期、慢性期においてグリア細胞を分取し、RNAシーケンスを行った。その結果、Ctrlと比較してEAEマウスのOPCでは、多数の炎症関連因子が発現上昇しており、OPC特異的に上昇するものも複数認められた。この結果より、OPCが炎症惹起に関与する可能性が示された。
本研究により、EAEマウスにおけるOPCの炎症促進的な一面が明らかとなった。今後は、OPCがEAEマウスにおいて炎症を惹起する分子機構の解明を進めていく。
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