研究課題/領域番号 |
19J23077
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
宇野 寛人 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | フッ素 / トリフルオロメチル基 / 中員環 / 不斉合成 / 複素環 / 双性イオン / パラジウム |
研究実績の概要 |
含フッ化複素中員環の不斉合成法の開発にあたり,双性イオン中間体を用いた環化付加反応に着目した。トリフルオロメチル基を有するベンゾオキサジノンを前駆体として設計し,パラジウム触媒による脱炭酸で生じるベンジル錯体中間体が,含フッ素複素中員環の不斉合成に応用できると考えた。当初の計画に基づき,キラルNHC触媒由来のエノラート中間体を用いた反応を検討したが,望ましい結果は得られなかった。この原因として,NHC触媒の強い配位能によってパラジウム触媒サイクルが阻害された可能性が考えられる。この問題を解決すべく,パラジウム触媒のみを用いた反応系を設計し直すことで中員環合成を試みた。カップリングパートナーとして様々な基質の検討を行った結果,ビニルエチレンカーボネートを作用させると[5+4]環化付加が進行することを見出した。本反応をキラルリガンド存在下で行うことで,反応基質の速度論的光学分割を伴い,高エナンチオ選択性に(R)-体の9員環生成物を得ることに成功した。(S)-体の未反応基質はラセミ触媒によって(S)-体の9員環に変換されるため,触媒量の単一対掌体リガンドから異なる2つの立体を有する含フッ素中員環をつくり分けることが可能である。反応機構解析の結果,当初想定していたベンジル型の双性イオンではなく,基質のアミド結合切断に伴って生じるキラル双性イオンの発生を鍵としていることが明らかになった。興味深いことにフッ素官能基を有さない基質では反応が進行せず,本反応におけるフッ素による活性化効果が確認された。この結果に基づき,次にビニルオキセタンを用いた反応を検討したところ,[6+6]環化付加によって複素12員環化合物が高い収率で得られることを見出した。これらのキラル中員環,大員環化合物は興味深い3次元構造を有しており,生理活性物質としての応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
医薬品において重要なトリフルオロメチル基を有する中員環および大員環化合物の不斉合成を達成し,2報の国際学術誌に論文を報告した。含フッ素複素中員環の構築手法としてパラジウム触媒を用いた双性イオン中間体に注目し,トリフルオロメチル基を有するベンゾオキサジノンを双性イオン前駆体としてデザインした。当初の計画であった不斉カルベン触媒を用いた反応系ではパラジウム触媒が失活することが示唆されたので,解決策としてパラジウム触媒のみで双方の基質を活性化する反応系を設計し直した。その結果,不斉源であるキラルリガンドの存在下,ビニルエチレンカーボネートを反応剤として用いることで,フルオロアルキル基を有するキラル複素9員環を高い立体選択性で合成することに成功した。反応機構解析によって,本反応は予想していたベンジル錯体ではなく,炭素-窒素結合の切断を経由したフルオロアルキル基を有するアリル錯体双性イオンの発生を鍵としていることを見出した。同様にビニルオキセタンを反応剤として用いた際には,フルオロアルキル基を有する複素12員環を高い収率で得ることにも成功した。これらの興味深い結果をもとに,次年度には更なる含フッ素複素中員環骨格の構築に展開できると考える。従って,本年度は期待以上の研究の進展があると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
我々は,フッ素で活性化されたベンゾオキサジノンが高活性な双性イオン中間体を生じるという知見に基づき研究に着手したが,本年度は予想外にも非常に興味深い結果を得ることに成功した。すなわち,フッ素で活性化されたベンゾオキサジノンは,強固なアミド結合の切断を伴ってパラジウム双性イオン中間体を形成することが明らかになった。この新たな知見に基づいて,フッ素官能基を有する新規の前駆体を設計し,当初の計画通りに更なる環化付加反応を検討する。これにより,双性イオンの発生を鍵とした,様々な含フッ素複素中員環の構築に展開していく予定である。
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