研究課題/領域番号 |
19J23094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西村 正宏 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | クロマチン / p53 / ヒストン / ヌクレオソーム |
研究実績の概要 |
本研究ではp53がパイオニア転写因子として働く機能メカニズムを明らかにするため、生化学的・構造生物学的解析をおこなっている。平成31年度は、p53が結合するヌクレオソーム中のDNA領域を解析するための生化学的解析を行った。その結果、ヌクレオソーム中のリンカーDNAがp53との特異的な複合体形成に重要であることを発見した。またp53-ヌクレオソーム複合体は泳動度の異なる複数のコンフォメーションをとる可能性が示唆された。これらの複合体を二次元電気泳動によって解析した結果、p53-ヌクレオソーム複合体が少なくとも4つの異なるコンフォメーションをとることがわかった。以上の知見は、p53がパイオニア転写因子として特定のクロマチン領域に結合するメカニズムを新規に明らかにしたものであった。 次にクライオ電子顕微鏡による構造解析を行うため、p53-ヌクレオソーム複合体の調製および構造解析をおこなった。p53-ヌクレオソーム複合体をショ糖と架橋剤の密度勾配超遠心分離法 (GraFix法)により精製しクライオ電子顕微鏡観察を行い、p53-ヌクレオソーム複合体の粒子を観察することに成功した。その後、データコレクションを行い、約20万個の粒子に対して単粒子解析を行ったところ7-10 オングストロームの分解能で複合体の密度マップを得ることに成功した。得られた密度マップは、既知のヌクレオソーム結晶構造とアミノ酸の二次構造レベルで概ね一致し、そのリンカーDNA付近にp53のものと思われる密度マップも観察された。この結果は先述の生化学的解析とも一致しており、p53がヌクレオソームのリンカーDNAと結合することを裏付けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はp53-ヌクレオソーム複合体の構造生物学的解析をおこなうための試料調製および、その条件検討を計画していた。現在までにクライオ電子顕微鏡によるp53-ヌクレオソーム複合体の粒子を観察する系が構築され、ヌクレオソーム上のp53の密度マップを得るための構造解析も順調に進んでいる。さらに、p53の標的ヌクレオソームを設計する過程で明らかとなった「p53がヌクレオソーム近傍のリンカーDNAと結合して、特異的な複合体を形成する性質」は、パイオニア転写因子によるヌクレオソーム認識機構の一端を明らかにする重要な知見であったため、研究計画時点で得られていた結果と合わせて、現在論文投稿準備中である。これらの成果について、国内にてポスター発表3件、口頭発表1件を行い、第59回生命科学若手の会にて優秀賞、日本生化学会大会にて若手優秀発表賞を受賞した。以上の達成状況を鑑みて、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度の研究において、p53-ヌクレオソーム複合体は少なくとも4つの異なるコンフォメーションをとることを発見し、それぞれのp53-ヌクレオソーム複合体を分離精製することに成功した。今後の研究においては、各p53-ヌクレオソーム複合体の立体構造をより詳細に明らかにするため、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析の条件検討を行う。さらには高分解能な構造決定を目指すため、X線結晶構造解析用の結晶化条件の探索を行う。結晶化に用いるp53-ヌクレオソームの設計はクライオ電子顕微鏡から得られた構造情報に基づき最適化を図る。その後、良質な結晶が得られ次第、大型放射光施設 (SPring-8、KEK)にてデータ測定をおこなう。これらの解析を通じてp53がヌクレオソーム中のDNA配列を認識する機構を原子分解能で明らかにすることを目指す。また構造生物学的解析と並行して、ヒドロキシラジカルフットプリント法、クロスリンク質量分析、水素-重水素交換質量分析法 (HDX-MS)を行うことによって、p53-ヌクレオソーム複合体内においてp53が接しているヌクレオソーム中のDNA領域やヒストンのアミノ酸残基、溶媒に露出するアミノ酸残基などの情報を得る。以上の研究を通じて、パイオニア転写因子p53による遺伝子発現制御メカニズムを解明していきたいと考えている。
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