研究課題/領域番号 |
19J23130
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福家 悠介 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 集団構造 / 淡水魚 / MIG-seq / ミャンマー / インレー湖 |
研究実績の概要 |
本研究はミャンマーの古代湖・インレー湖周辺域における生物多様性の創出機構の解明を目的としており、本地域で特に多様性の高い淡水魚類に注目し、以下の2つのアプローチによって目的の達成を試みる:(1)インレー湖固有種について網羅的な分子系統解析および分岐年代推定による魚類相形成プロセス推定、(2)本地域で特に多様化しているコイ科魚類の適応進化と種分化機構の推定。 第2年度はインレー地域内における固有種の遺伝構造に関する研究について進展があった。固有種網羅的な解析のために、ゲノムワイドな多型検出手法であるMIG-seq法をより低コスト化し、なおかつ情報量が増えるようにプライマーセットとシーケンスプラットフォームの改良を行った。イルミナ社のNovaSeq 6000システムでシーケンシングを行うことで、従来の3分の1以下のコストでより長いリード長のデータを取得することに成功した。この改良したMIG-seq法をインレー地域の固有種5種に適用し、従来のMIG-seq法で取得した固有種2種のデータと併せて、それぞれの種について集団構造の推定を行った。 その結果、すべての固有種で地域内における明瞭な地域分化が認められた。また、そのパターンは種間で共通性があった。ミトゲノムに基づく地域集団間の分岐年代を推定したところ、固有種の地域分化は2-8 Maに生じていた。固有種間でパターンが共通するために、この期間に地理的な障壁が形成されて集団が分断されたことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第2年度は、インレー湖およびその周辺域の固有種7種における集団構造を、新たに改良したMIG-seq法で取得したゲノムワイド多型データに基づいて推定した。新たな実験手法を適用することによって、当初の計画を超えたデータを得ることができた。また、インレー地域に広く生息する固有種網羅的な解析と種間比較から、本地域における固有種の遺伝的多様性の実態と形成プロセスに一端に迫ることができた。 一方、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、計画していた海外調査は延期となり、この調査に関連した固有種の適応進化と種分化機構に関する研究の進展はほとんどみられなかった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの感染拡大およびミャンマーで2021年2月1日に生じた軍事クーデターの影響から、現地におけるフィールド調査は断念せざるを得ない。そのため、野外調査の必要な固有種の適応進化と種分化機構の研究については、これまでの調査や先行研究によって蓄積された標本・DNAサンプルを用いて完結できる研究計画に変更する必要がある。そこで、1)在来種網羅的な系統解析と分岐年代推定、2)在来種のうち、南アジアから東南アジアの広域に分布する種における系統地理パターンの比較、3)固有種の集団構造の比較、の3つの解析からインレー湖周辺域における生物多様性の創出機構に迫る予定である。
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