研究課題/領域番号 |
19J23138
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大江 耕介 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 走査型透過電子顕微鏡 / 電子線敏感材料 / 低ドーズ観察 |
研究実績の概要 |
走査型透過電子顕微鏡(STEM)は、サブオングストロームの大きさまで収束させた電子線で観察試料をスキャンし、透過した電子を検出することによって結像する顕微鏡である。STEMは極めて高い空間分解能を得ることができ、材料科学において物質中の粒界や点欠陥をはじめとする局所的な原子構造の乱れと材料特性との相関の解明に強力な手法として用いられてきたが、STEMによる材料構造解析における近年の大きな課題として、電子線敏感材料の観察が挙げられる。STEM観察では試料に高加速電子線を照射するが、リチウムイオン電池材料やポーラス材料は電子線に弱い電子線敏感材料であり、電子線照射により容易に試料の結晶構造が破壊されるため、特に電子線を高密度に照射する高分解能観察は困難なものとされていた。そこで本研究では、超高感度STEMイメージング手法を開発することで電子線敏感材料の原子構造直接観察を可能にするとともに、これらの材料における局所原子構造欠陥と材料特性発現メカニズムとの相関を明らかにすることを目的としている。 本年度は、昨年度開発に成功した超高感度STEMイメージング手法である最適明視野(OBF)STEM法を利用した電子線敏感材料の原子構造直接観察への応用に取り組んだ。昨年度では従来手法で観察が困難だったリチウムイオン電池材料中リチウム原子の直接観察によってOBF法の実証実験を行ったが、本年度はさらに電子線に弱い材料とされているゼオライトを対象とし、OBF法による観察を行った。電子線敏感材料観察では、照射ダメージを低減するために低電子線量(低ドーズ)条件での観察が必要だが、同時に結像時の露光量が減少することから得られる信号ノイズ比が低下するという問題があり、従来手法では観察が難しかった。しかし、開発したOBF法を用いることで、ゼオライトの骨格構造を高コントラストに観察することに実験的に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究によって開発したイメージング手法であるOBF STEM法を利用した電子線敏感材料の原子構造直接観察を行った。昨年度は手法開発の実証実験としてリチウムイオン電池材料中のリチウム原子直接観察を行ったが、本年度は電池材料だけでなく、より電子線に弱いとされているポーラス材料のひとつであるゼオライトの観察も試みた。照射する電子線量を通常より大幅に低減した状態でOBF法を用いることにより、従来では観察が困難だったゼオライト骨格構造の原子スケール直接観察に成功し、開発手法の有効性を実験的に示すことができた。以上の内容から進捗状況としては順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続き電子線敏感材料の局所構造解析を進めていくとともに、OBF法から得られた像に理論計算を組み合わせることにより、材料特性発現メカニズムと局所原子構造との相関を明らかにする。また、得られた知見は論文や学会発表による外部報告を積極的に行う。
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