研究課題/領域番号 |
19J23155
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉野 駿 東京大学, 人文社会系研究科基礎文化研究専攻(美学), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ディドロ / 美学 / 理想的モデル / 後世 / 18世紀 / 啓蒙 / 唯物論 |
研究実績の概要 |
本研究は、18世紀フランスの哲学者ドゥニ・ディドロの美学を主題としている。本研究はとくに「理想的モデル」の概念に着目し、後期ディドロの美学理論の生成とその意義を明らかにしようと試みるものである。その進展のためには三つの段階を想定される。2019年度はその第一段階の課題である、先行する美学理論とディドロの理論の関係性を研究した。理論的側面から先行する美学理論とディドロの理論の比較を行うことで、ディドロの「理想的モデル」論が同時代的にいかなる独自性と新規性を持っていたかを浮き彫りにし、また今日的な意義を提示する手蔓を発見することができた。この理論が当初想定した以上に豊かな内実を孕むとともに、多くの文脈の結節点となっていることが明らかになり、第二段階での研究課題が複数見つかった。 具体的には、当該年度に報告者はまず、ディドロの「理想的モデル」論の生成過程と内実を明らかにするため、ディドロが直接に参照しながら批判している諸理論との比較を試みた。それから、ディドロが先行する諸理論との対決を通じて、イデア論的藝術制作理論を唯物論的に許容しうるものに変容させる手つきを分析した。ついで、ここから導かれた理論的達成が、ディドロの「後世」論のなかでさらに詳細に展開されていると示した。 まず、今年度の進展のなかで意義深いのは、ディドロの理想的モデル論が、唯物論と観念論の調停を試みた、同時代的に独自かつ革新的なものであると明らかにしたことである。ライプニッツの理論的達成やバウムガルテンの問題提起を受けながら、ディドロはフランスの唯物論者として「手探り」の論理を構築したのである。この理論的達成は現代哲学の諸問題にも寄与するところがあると考えられる。以上を明らかにした点に、本研究の新規性と意義が存する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、当該年度はディドロの「理想的モデル」論を、先行する同時代の諸理論との関係のもとに研究することを計画していた。しかし実際には、同時代の諸理論との比較のもとにディドロの「理想的モデル」論の賭け金を示すとともに、現代哲学の理論を参照しながらディドロの理論的な革新性を深く検討することができた。また、「手探り」や「後世」の概念など、「理想的モデル」論のなかで機能している概念装置を相互に関連づけて論じることの必要性が明確になり、次年度以降の研究にとって重要な課題が見つかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はディドロの他の著作(『徳と価値に関する試論』翻訳、『セネカ論』など)にアプローチしながら問題の射程を広げていく。そこでは初期ディドロの存在論と倫理学の問いが、徐々に美学と政治学へ転回する過程が見られるだろう。また、啓蒙思想のなかでの唯物論と観念論の相克の問題を、ディドロ以外の著作(例えばドルバック、エルヴェシウス)を読解しながら広い視野で問い直すことも必要になると考えられる。あらかじめ存在する大文字の「真理」や神により整序された世界の秩序の「美」といった観念を斥けながら、いっぽうでいかにして人間による思弁や探究の可能性を打ち立てるかという、哲学的な問題に取り組むディドロの議論を具に追跡すること。そして、そのなかで感性学としての「美学」の根本的な重要性を理論的に明らかにすることが、以後の大きな課題である。
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