研究課題/領域番号 |
19J23164
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
刑部 昂 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | クロード・マッケイ / 黒人文学 / ソネット / プロテスト / 黒人問題 / ハーレムルネサンス / 二重意識 |
研究実績の概要 |
令和2年度において、本研究ではジャマイカ出身でハーレムルネサンス期に活躍した作家・詩人であるクロード・マッケイのプロテスト・ソネットを扱った。この研究成果は、東京大大学院人文社会系研究科英語英米文学研究室発行の査読雑誌『Strata』 (2021 年 3 月 1 日発行)に論文の形で発表した。プロテスト・ソネットは、従来黒人問題を芸術を利用して社会的に訴えるためのものとして理解されてきた。しかし、本研究ではそこに「プロテスト」という政治的な側面と、「ソネット」という西洋の詩における美学的な側面という、二つの相反する性質が渾然となっていることに改めて注目することで、マッケイの”If We Must Die”といった代表作が、単に黒人問題を訴えた政治的な詩としても、あるいは西洋的な芸術性に固執した伝統主義的な作品としても割り切ることのできない、曖昧さを帯びていることを示した。そしてそれよってマッケイが、人種問題を政治的に訴えるという黒人文学的な枠組みを解体していることを論じた。 また本研究は、黒人女性作家トニ・モリソンの諸作品において、黒人を差別する白人的な眼差しを 黒人自身が内面化することで生じる、いわゆる「二重意識」というW. E. B. デュボイスが提示した概念が、白か黒かと明確に区別できない形で用いられているという見立てを起点として、モリソン以前の黒人文学を旧来的な(政治性に比重を置いた)枠組みを超えて読み直すという本研究課題の目的の一環でもある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、トニ・モリソンにおける「二重意識」の曖昧性を起点として、モリソン以前のアメリカ文学を捉え直すことを目的としている。現在まで、とりわけ黒人文学を中心に、クロード・マッケイの詩作品や、他のハーレムルネサンス期の作家やジェイムズ・ボールドウィン、リチャード・ライトなどそれ以降の作家に関して研究を進めてきた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題が目的としているのは、トニ・モリソンを起点として、白人文学や黒人文学を読み直していくことである。これまで行ってきた黒人文学研究では、人種問題を扱う政治的な作品として読まれることの多かった黒人文学において、そもそも芸術作品に内在する西洋的な美学がどのように関係してくるかを精査することで、白人性と黒人性の分かち難い二重性を捉えることを目指してきた。今後の研究の道筋としては、これまで行ってきた黒人文学研究をまとめながら、白人文学における自我形成と人種との関わりについての研究を進めていく。こちらの研究は、すでにエドワード・サイードやモリソン自身などによって充実した議論がなされており、それらを参照しつつ進めていく。
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