2021年度は、前年度に引き続き、ハーレム・ルネサンスを代表する作家であるクロード・マッケイを対象に研究を行った。前年度は、マッケイのプロテスト・ソネットにおける主体が、アイデンティティを特定できない形で描かれていることに注目することで、ソネットの声が、当時退廃しつつあったソネット形式自体の自己言及的な抵抗や人種差別に争う黒人たちの声としてだけでなく、他の多様な人々の声としても再分脈化可能であることを研究した。2021年度は、そのような理解を手がかりとして、マッケイの小説作品の読解を試みた。賭博場やキャバレー、娼館などでの黒人労働者たちの風俗を描いた代表作Home to Harlem(1928)は、発表当時から、黒人知識人たちが提唱するrespectableな新しい黒人像(New Negro)と逆行するものとしてしばしば批判されてきた。近年の研究では、作品内に描かれるジャズやブルースといった民衆音楽に注目することで、知識人階級とは異なる形での文化的抵抗が示されていること、そうした抵抗の声が音楽とともに全世界に拡散していったことなどが示されてきた。こうした先行研究を受容しつつ、本研究者は本作品でも言及される、ウィリアム・ワーズワースやH. G. ウェルズ、ジョージ・バーナード・ショーといった先行するイギリス文学との関係性を問い直すことで、マッケイが当時の潮流に逆行してまで労働者階級の民衆音楽を描かなければならなかった理由を掘り下げることを試みた。この成果は2022年6月の日本アメリカ文学会東京支部会において発表する予定である。
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