本年度は、沈殿の離散的析出により自己組織化的に形成されるリーゼガングパターン (LP) 形成機構の標準モデル構築に向け、物質拡散流束とパターン周期の関係解明に関する研究と、自然界に遍在するリーゼガング型類似機構解明への展開を目指し、類似の幾何学構造として知られるボロノイ図へのLP形成機構の応用を模索した。 ・拡散流束とLPの関係性解明 実験として、ゲル上部に注ぐ電解質溶液(拡散源)の濃度を固定しその溶液体積のみを変化させた。具体的には、ゲル体積と拡散源体積の拡散平衡に基づく計算を基に、時間変化と共に拡散源濃度が変化していく条件1 と、拡散源濃度が常に一定に保たれる条件2を検証した。その結果、実験開始時の拡散源初期濃度が同値であるにも関わらず、条件2の方がLPの沈殿領域の間隔がより狭くなった。更に、異なる拡散流束の時間変化を考慮可能な反応拡散モデルを構築し、それを基にシミュレーションを行い実験結果と比較した。その結果、拡散流束が大きいほど間隔の狭い沈殿パターンが得られ、実験結果が拡散流束の変化を反映した結果であることを明確化した。以上の結果を基に、LPの周期性変化が拡散流束の関数として一義的に表記可能であることを見出し、構造周期の分岐の有無関わらず、拡散流束がLP周期の決定において重要な役割を担うことを明らかとした。 ・LP形成系のボロノイ図への応用 自然界のボロノイ図の代表例であるトンボの翅構造に着目し、ゼラチンの光架橋反応とN-イソプロピルアミド (NIPAM) の重合反応をLP形成系にて複合させることで、ボロノイ図の形成を目指したが、期待されるような幾何学構造は得られなかった。その原因として、本系は1. ゼラチンの架橋、2. NIPAMの拡散、3. NIPAMの重合反応の3つの素過程の速度論的バランスを考慮する必要があり、それらの調整の適正化を行えなかったことが挙げられる。
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