研究課題/領域番号 |
19J23243
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
長谷川 誠樹 早稲田大学, 先進理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | プラズモン / 蛍光増強 / 励起場変調 / 強結合 |
研究実績の概要 |
今年度,特別研究員は本研究課題達成の肝となる(1)プラズモン誘起蛍光増強に関する研究と(2)二次元金属ナノ構造体の光学応答評価の二つの研究実施を予定していた。一つ目の研究では,昨年度まで用いていた色素よりも蛍光量子収率の低い色素を用いることで,これまでよりも高い蛍光増強が達成可能であることを明らかにした。また,得られた時間分解蛍光減衰曲線の新たな解析手法を確立し,より詳細な励起寿命解析を可能とした。これらの知見は,本研究課題の最終目標である超解像イメージングを達成する上で非常に重要となる。二つ目の研究では,金メソディスクおよび金メソドーナツ構造を対象とし,近接場三次元イメージングを行なった。その結果,金メソドーナツ構造の開口およびその近傍において金メソディスク構造では見られなかった特異な光学応答が観測された。また,電磁気学計算を用いたシミュレーションから,この特異な光学応答には電場だけでなく磁場の増強が関与していることが示唆される。これらの結果は,開口のある構造体が超解像イメージングにおいて有用であることを示している。また,空間位相変調器を用いた励起場制御に関する実験から,超解像イメージングが達成可能であることを示唆する結果が得られた。さらに,上記の研究に加えて,プラズモン-分子強結合系に関する研究を行なった。アルミニウムナノディスクと蛍光色素のJ会合体を近接場透過測定および一光子・二光子発光測定を行った。それらのスペクトル・空間特性から,プラズモン-エキシトン強結合状態ひいてはプラズモンと分子の相互作用に関する知見が得られた。これらの研究を進展させることにより,本研究課題が達成可能であると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,最終目標達成のために以下の三つの研究課題を設けていた。(1)金ナノ構造体近傍におけるプラズモン誘起蛍光増強,(2)金ナノ二次元構造体に励起されるプラズモン共鳴特性の解明,(3)励起場制御によるプラズモン場の制御。一つ目の研究課題は昨年度から取り組んでおり,予定より遅れているものの順調に研究が進展している。近接場励起による実験から励起場増強の空間特性は,励起波長で励起されるプラズモン共鳴の空間特性を反映していることが明らかとなった。また,蛍光放射増強は用いた蛍光色素の量子収率に依存することも実験的に明らかにした。実験で得られた時間分間蛍光減衰曲線の新たな解析手法を確立したことにより,これまでよりも詳細に蛍光の励起・放射増強の空間特性に関する知見を得られるようになった。二つ目の課題についても昨年度から取り組んでおり,順調に研究が進展している。研究開始当初から有望視されていた開口のある二次元構造体のプラズモン共鳴特性について三次元近接場透過測定を用いて研究を行なった。その結果,当初の目論見通り,開口近傍において特異な光学特性を示すことが明らかとなった。電磁気学計算との比較から,この特異な光学特性は電場および磁場の増強に起因することが示唆される。これらの結果より,開口の存在する二次元構造体は超解像イメージングに有用であると期待される。三つ目の研究課題も順調に進展している。昨年度までに変調励起場電磁気学計算手法の開発を終えており,今年度は金ナノ粒子を対象として予備実験を行なった。その結果,励起場変調により超解像が達成できることを示唆する結果が得られた。また,上記の研究に加えてプラズモンと分子の相互作用をより詳細に明らかにする目的でプラズモン-分子強結合系に関する研究を開始しており,順調に研究が進展している。上記の通り,本研究は,概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後,(1)金ナノ構造体近傍におけるプラズモン誘起蛍光増強,(2)金ナノ二次元構造体に励起されるプラズモン共鳴特性の解明,(3)励起場制御によるプラズモン場の制御(4)プラズモン-分子強結合系の研究および(5)励起場変調による超解像イメージングの達成の五つの研究を進めていく。一つ目の研究については,これまでの実験・理論計算により得られた知見をまとめて論文化を行う。二つ目の研究については,金メソドーナツ構造の光学特性をより詳細に明らかにするため,局所励起の電磁気学計算を進める。現行の局所励起電磁気学計算では,磁場の効果を取り込めておらず,実験結果をよく再現していない。そのため,磁場の効果を取り込んだ局所励起電磁気学計算手法を確立する。得られた計算結果と,今年度行なった三次元近接場透過特性の結果と合わせて論文化を目指す。三つ目の研究については,今年度行なった予備実験の結果をもとにさらに実験を進め,空間位相変調器を用いた励起場変調によるプラズモン共鳴の選択励起を目指す。また,二つ目の研究で用いた金メソドーナツ構造についても実験を行い,開口がプラズモン共鳴に与える影響をさらに詳細に明らかにする。四つ目の研究は,現在行っているアルミニウムナノ構造体に加えて,金ナノ構造体と色素分子J会合体との強結合系について遠方場・近接場測定を行う。また,強結合系を再現する電磁気学計算の開発を行う。得られた知見をまとめて論文化を目指す。五つ目の研究については,一つ目から四つ目までの研究結果を踏まえて蛍光増強基板を開発し,超解像イメージングの達成を目指す。
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