今年度は新型コロナウイルス感染症の影響が改善し、陽子線治療施設におけるPET測定実験を複数回に渡り実施できた。特に、近年の陽子線治療において主流となっている動的なスキャニング照射法のPET計測データを新たに取得することができた。そこで、昨年度までに開発したPETシミュレーション及び線量分布推定アルゴリズムをスキャニング照射に対応できるよう拡張を行った。具体的には、スキャニング照射における複雑なスポット・レイヤー照射の時間構造を反映したPET画像を得るために、Event-by-Eventのリストデータを解析するプログラムを作成した。次に、ポジトロン放出核種の生成と減衰をモデル化する計算手法を確立した。開発した手法ではレイヤー毎の分布をベースにしながらスポット毎の時間構造を反映するハイブリッドモデルを採用した。これにより、計算量が多い事前計算部分と必要最低限のリアルタイム計算部分に分けることができ、陽子線照射中にリアルタイムで結果を出力することが可能になった。また、スキャニング照射では半減期が1秒以下の超短半減期核種の寄与が相対的に大きくなることが分かった。モンテカルロシミュレーションを用いて超短半減期核種の生成量を割り出し、ポジトロンのレンジ効果を含めたActivity分布を解析計算で求めるアルゴリズムを新たに開発した。今年度の研究成果については国際学会での発表を実施し、原著論文を執筆中である。 3年間の研究期間を通じて、陽子線照射によって患者体内に生成するポジトロン放出核種のActivity分布をリアルタイムで推定するPETシミュレーション及び患者へ投与された実線量を可視化する線量分布推定アルゴリズムの基礎原理を確立することができた。
|