研究課題/領域番号 |
19J23280
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北川 裕貴 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 赤色蛍光体 / 複合アニオン化合物 / 価電子帯制御 / 電荷移動遷移 / 第一原理計算 / Judd-Ofelt理論 |
研究実績の概要 |
本研究では、化合物中のアニオン組成を変えて価電子帯位置を制御することによる新規光機能性材料の創製に向けて、発光中心としてEu3+を賦活した種々の複合アニオン化合物を作製し、分光法に基づく光物性の評価、および第一原理計算を用いた複合アニオン配位子場によるEu3+蛍光特性への影響の考察を試みた。当該年度は、[1]酸窒化物YSiO2N、および[2]酸ハロゲン化物YOX(X = Cl, Br)について、以下のように取り組んだ。 [1]窒素2p軌道による価電子帯の上昇を目的として、YSiO2N:Eu3+を作製した。単結晶X線回折による構造解析の結果、作製したYSiO2Nは既報の空間群には属さない新規構造を有することが明らかとなった。Eu3+を収容可能なY3+サイトは8配位の局所構造を持つが、反転中心の有無が異なる2種類が存在することがわかった。低温での分光測定結果から、同一化合物中でありながらEu3+が局所構造の違いにより、2種類の大きく異なるスペクトル形状および蛍光寿命を示すことを明らかにした。蛍光スペクトルに関して、希土類イオンの光学遷移確率を定量的に説明するJudd-Ofelt理論に基づいて解析したところ、反転対称性の破れによってYSiO2N中のEu3+は、10倍以上高い5D0→7F2電気双極子遷移確率を示した。 [2]酸ハロゲン化物YOClおよびYOBrは同じ結晶構造を有することから、アニオン置換による固溶体形成が期待される。Eu3+蛍光体としての基礎物性を調査するために、YOX:Eu3+(X = Cl, Br)を作製し、分光測定および第一原理計算を行った。価電子帯のエネルギーに依存するEu3+の電荷移動遷移エネルギーは、YOClとYOBrでわずかに異なるが、第一原理計算よりハロゲンp軌道によることが明らかとなり、固溶体形成による価電子帯制御の可能性を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、主に3種類の複合アニオン蛍光体(YSiO2N:Eu3+、YOCl:Eu3+、YOBr:Eu3+)の光物性評価および第一原理に基づく電子構造評価を行った。いずれの結果についても、価電子帯制御による赤色残光発現への可能性が示唆されていることから、研究は順調に進んでいるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
[1]酸窒化物YSiO2N:Eu3+に関して、X線回折では酸素と窒素の違いを区別できないので、中性子回折によるより詳細な構造解析を行う。キャラクタリゼーションについては、Eu3+が占有するY3+サイトの局所構造の違いによりそのスペクトル形状および蛍光寿命が大きく異なるという興味深い結果が得られているので、サイト選択的な分光法によってより詳細に光物性を調査し、YSiO2N:Eu3+の発光メカニズムの解明を目指す。また価電子帯制御により、ホールをキャリアとしたメカニズムによる残光を示しうることが期待されるので、最適共添加希土類イオンを光物性評価から推定し、赤色残光発現の可能性について検討する。 [2]酸ハロゲン化物に関して、これまでに作製した酸塩化物YOCl:Eu3+が赤色残光を示すことを確認した。そこで、その残光特性について詳細に調査すると同時に、YOBrとの固溶体形成や最適共添加希土類イオンの添加などにより、残光特性の向上を目指して合成を行う。 上記[1]、[2]に加えて、他の複合アニオン化合物についても価電子帯制御による興味深い光物性が得られないか探索し、合成および光物性評価を試みる。
|