大動脈弁二尖弁疾患とは本邦でも人口の約1%に認められる症例であり、大動脈弁逆流症や狭窄症、または上行大動脈拡大等に進展する。今後の治療方針次第で患者QOL向上を望めるが、弁尖へ手術アプローチする場合は人工弁置換が一般的に実施される。人工弁は耐久性に富む一方で抗凝固剤の服用等課題が残ってしまう。これに対して、二尖弁疾患の弁形態による血行動態や弁開閉形態の違いを明確にすることにより、二尖弁疾患における形成術の確立を目指すのが本研究の目的である。 昨年度までに、拍動循環シミュレータを用いた弁前後血行動態計測システム、有限要素解析を用いた弁閉鎖時形状・閉鎖時最大応力を算出する試験システムを構築した。本年度はこれらの試験システムを用いて明らかにした、大動脈弁二尖弁疾患の弁形態が弁機能に及ぼす影響に関する知見を基に、新たな大動脈弁二尖弁疾患に対する治療指針の取得に取り組んだ。 これらの試験システムを基に大動脈二尖弁疾患に対する形成術式を考案すると、交連角度が対称に近づくと弁接合性能が改善されるが、弁開口面積が低下する。一方で交連角度が非対称に近づくと弁接合性能が悪化するが、弁開口面積が保たれる。しかし、弁開口位置が中央からずれて傾くために、実際の血行動態を想定すると、血管の長軸方向に対して傾くような血行動態になるのではないかと想定される。これはジェット流の衝突による大動脈拡大を引き起こすのではないかと考えた。そのため、二尖弁疾患に対しては弁尖がなるべく対称性を有するように形成術を施し、弁輪が狭窄しないように弁輪面積を確保するのが重要なのではないかという治療指針を得た。
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