研究課題/領域番号 |
19J23338
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鐘 承超 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 光触媒 / ドメイン / 極性構造 / 単結晶 |
研究実績の概要 |
本研究ではBi4NbO8X(X = Cl, Br)を始めとするSillen-Aurivillius型層状酸ハライド光触媒の高活性の原因を探るため、光励起キャリアダイナミクスの解明を目指す。Bi4NbO8Xの高活性の一つの原因として、極性構造を持つBi4NbO8Xの自発分極が光励起電子とホールの分離を促進することが考えられる。しかし、実際の結晶内では単一の自発分極ではなく、複雑なドメイン構造(自発分極が同じである領域)を形成している。ドメイン構造を知ることは光励起キャリアのダイナミクスの解明に深く関係しているため、本年度はBi4NbO8X単結晶を用いたドメイン構造の観察を行った。 Bi4NbO8Br板状単結晶の露出面であるab面のドメイン構造を調べるため、圧電応答型顕微鏡を用いた観察を行った。その結果、自発分極が90°異なる強弾性90°ドメイン壁と180°異なる強誘電180°ドメイン壁が発見された。ab面内では90°ドメインがメインになっており、数十nm~数百nmのスケールであることが分かった。また、180°ドメインの自発分極がぶつかり合うhead-to-headとtail-to-tailの帯電したドメイン壁も観察された。a(b)c面のドメイン観察を行うため、FIB-SEMによるa(b)c面の切り出しを行い、透過型顕微鏡を用いた暗視野観察を行った。その結果、曲がった90°ドメイン壁が観察された。これは、90°ドメイン壁が通常の平らな状態として安定される前にハロゲン空孔もしくは酸素空孔と相互作用することが一つの原因だと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、Bi4NbO8Br単結晶のab面、a(b)c面からのドメイン構造の特定により、光励起キャリアのダイナミクスを理解するヒントが得られた。例えば、BiFeO3薄膜中の強弾性ドメイン壁はドメイン壁の両側にポテンシャル差が存在するため、光励起キャリアの移動を促進させ、巨大光電流を誘起することが知られている。これに類似して、Bi4NbO8Br単結晶の90°ドメイン壁でも光励起キャリアの移動を促進させ、より早く光触媒反応サイトに誘導する役割を果たしていることが考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Bi4NbO8Br単結晶の光触媒反応サイトの観察及びドメイン構造との相関を調べるため、液中の単結晶表面電位の計測が行えるオープンループ電位顕微鏡を用いた観察を行う。これまですでに観察を試みてみたものの、単結晶が観測中にドリフトを起こす、AgNO3溶液を光触媒反応の犠牲剤として使用した際にAg+がAgに還元され探針に析出するなどの問題が起こり、まだ観察に成功していない。今後も測定条件の最適化を試みる。 (2) 類似構造を持つ他のSillen-Aurivillius型層状酸ハライド光触媒の単結晶合成を試みる。酸ハライド化合物では高温でハロゲンが揮発するため、フラックスなどを使用し、より低温での単結晶育成を試みる。それらの物質にもドメイン観察や光触媒反応サイトの観察を行うことでより深い知見を得ることを目指す。
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