研究実績の概要 |
これまで層状ペロブスカイトBi4NbO8X(X = Cl,Br)の優れた光触媒特性の原因をその結晶構造から解明することを試みてきたが、本年度、Bi4NbO8Br単結晶を用いた透過電子顕微鏡観察により、既報の結晶構造に誤りがあることを発見した。粉末中性子回折及びシンクロトロン放射光による構造解析を行った結果、Bi4NbO8Brは面内方向に既報構造よりも一桁大きい自発分極(計算値:31.3μC/cm2)を有することが明らかになり、それに加え面間にも自発分極があることが新たに発見された。光触媒において自発分極は光励起電子と正孔を逆方向に分離することが提案されている。層状構造を持つBi4NbO8Brでは、光励起キャリアは面内を流れると考えられていたが、面間の自発分極により光励起キャリアは層間への移動も新たに考えられ、光触媒におけるキャリア制御の新たな可能性を示唆する。 本年度は、構造的観点から新規水分解光触媒の探索も行った。ダブル蛍石層とトリプル蛍石層は光水分解特性に良い構造ユニットであり、この二つのユニットが同一構造内に存在する物質Bi4BaO6Cl2を無機構造データベースから発見した。本研究ではBa2+をSr2+とCa2+に変えた新物質を開発することに成功し、A2+カチオンによってバンドギャップの調整が可能であるが分かった。Bi4AO6Cl2(A = Ba, Sr, Ca)は、犠牲剤の存在下で安定した水分解光活性を示した。第一原理計算からはBi4AO6Cl2の価電子帯の上端と伝導帯の下端は、それぞれトリプル蛍石層及びダブル蛍石層に位置しており、光励起電子と正孔の再結合を抑制することが示唆される。このような特異なバンド構造は、ダブル蛍石層やトリプル蛍石層のみからなる酸ハロゲン化物では実現することが困難であり、今回層の積層によってバンド構造を設計できることを見出した。
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