研究課題/領域番号 |
19J23359
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松岡 輝 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 光触媒 / 水分解 / 表面修飾 / メタルシアノフェレート / プルシアンブルー / 配位高分子 / 可視光 |
研究実績の概要 |
これまで、メタルシアノフェレート(K2M[Fe(CN)6]、M:金属種、以下MCF)を硫化物光触媒に修飾すると、[Fe(CN)6]4-を還元剤とした水素生成が促進されることを見出してきた。当該年度では、さらなる水素生成促進に向けたMCFの設計指針を得ることを目的とし、(1)MCFの酸化還元特性と光触媒の水素生成活性との関係性の解明、(2)MCF中の配位子部分置換が水素生成活性に与える影響の評価に取り組んだ。 (1)これまでに各種MCFを用いた検討から、MCF中のFe種の安定な酸化還元サイクルが、MCF修飾による水素生成促進に必須であることを明らかにしている。しかし、MCFのその他の物性が水素生成活性に与える影響については未解明であった。そこで当該年度は、光触媒の価電子帯上端とMCFの酸化還元電位との関係が水素生成活性に与える影響を調査するため、固溶比に応じてバンドレベルを連続的に制御可能な硫化物光触媒CuxAgxIn2xZn2(1-2x)S2(x:固溶比)に対し、酸化還元電位の異なる数種のMCFを修飾して水素生成活性を評価した。その結果、光触媒の価電子帯上端よりも十分負側に酸化還元電位を有するMCFを修飾し、光触媒-MCF間の電子移動を促進することが活性の向上に重要であることを見出した。 (2)これまではMCFに含まれる金属種Mに主に焦点を当ててきたが、当該年度はMCFのもう1つの重要構成部位である「配位子」にも着目して検討を進め、配位子の一部置換により硫化物光触媒の水素生成活性が向上することを見出した。2種の鉄シアニド錯体前駆体を用いてシアニド配位子の一部をアンミン配位子に置換したCdCF(CdCF-NH3)を合成し、ZnIn2S4光触媒に修飾して水素生成活性を評価した。その結果、従来の未置換CdCFを修飾した場合と比較して水素生成速度をおよそ3倍向上させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究計画においては、「硫化物光触媒に修飾するMCF中の金属種Mを変化させた場合の水素生成活性に与える影響の評価」および「硫化物光触媒ZnIn2S4に修飾するMCF種を配位子置換によって物性制御した場合の水素生成活性に与える影響の評価」を取り組むべき事項として挙げていた。 前者の項目に関しては、組成比によってバンド構造を変化させることが可能な硫化物CuxAgxIn2xZn2(1-2x)S2(x:組成比)を本系に適用することで、光触媒の価電子帯上端とMCFの酸化還元電位のポテンシャル差が水素生成活性に与える影響を系統的に評価した。その結果、このポテンシャル差を増大させることが、水素生成活性の向上に有効であることを明らかにした。 後者の項目に関しては、合成時に2種類のシアニド錯体前駆体を使用することで、CdCFのシアニド配位子の一部をアンミン(NH3)配位子に置換した。各種物性評価から、アンミン配位子導入による粒子の結晶性・形状・サイズ・比表面積には大きな変化がなかったことから、骨格構造を維持したまま部分的に配位子を置換することに成功したといえる。この配位子置換したCdCF(CdCF-NH3)をZnIn2S4 に修飾したところ、従来の未置換CdCFを修飾した場合よりも大きく水素生成活性が向上した。構造中に導入されたアンミン配位子は非架橋性の配位子であるため、CdCF表面に露出するFe種(活性サイト)濃度が増加したことが予想され、このFe種濃度の増加が活性向上の一因であると推察される。このように、MCF種を用いたさらなる水素生成活性向上の戦略として新たに、MCFの構造中の配位子置換が有用であることを明らかにした。 以上の結果から、概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は主に2つの方策のもと進める。1つ目の方策として、2019年度の成果の一つである「MCFの配位子置換による水素生成活性向上」を基に、系統的にMCFの配位子置換を行い、変化させた物性が光触媒活性に与える影響の解明を推し進め、高効率水素生成系光触媒の構築に向けたMCFの設計指針を得ることを目指す。具体的には、配位子置換によって変化させたMCFの酸化還元特性およびMCF表面に露出するFe種(活性サイト)濃度と水素生成活性との関係性を定量的に解明する。そのため、CdCFの場合に配位子置換が効果的であったアンミン配位子を基準に、アンミン配位子と電子供与能・受容能が異なる配位子を用いることによってFe種の電子密度を変化させ、酸化還元特性を精密に制御したMCFの合成を図る。また、立体的にかさ高い配位子の導入により、MCF表面に露出するFe種濃度の制御に取り組む。 2つ目の方策として、MCFの粒子径や比表面積等の物性(および修飾状態)と光触媒活性の関係を明らかにし、光触媒反応を効率的に進行させうる(硫化物)光触媒の合成を進める。一般に、光触媒表面に修飾した(助)触媒の粒子径や比表面積は、光触媒活性に大きな影響を与えることが知られている。MCFの場合にもこれらの物性が活性に影響を与えると予想されるが、これらの物性と活性との関係はほとんど議論されていない。一方、いくつかの先行研究において、原料濃度や反応温度、反応時間といった合成時の反応条件が、核生成や結晶成長速度を変化させ、MCFの粒径等の物性に影響を与えることが報告されている。そこで、これらの合成条件の検討により、粒子径や粒子形状等を制御したMCFを合成する。得られたMCFを光触媒に修飾し、その修飾状態や光触媒活性への影響を明らかにする。
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