研究実績の概要 |
これまで、メタルヘキサシアノフェレート(AaM[Fe(CN)6]b, A:カウンターカチオン、M:金属種、a, b:組成比、MHCFと略)種を水分解用光触媒の表面に修飾すると、光触媒上に光生成した正孔による基質(レドックス媒体[Fe(CN)6]4-や水)の酸化が促進され、光触媒活性が向上することを見出してきた。この際、MHCF自身に含まれるFe種の酸化還元を介して酸化が促進されることが提案されている。当該年度では、昨年度までに得られた成果とMHCFによる酸化促進の推定機構に基づき、(1)MHCFによるレドックス媒体Fe2+の酸化促進、(2)MHCFの固体電子メディエータへの応用展開を検討した。 (1)長年、Fe3+/Fe2+レドックス対を用いるZスキーム型水分解系において高効率な水素生成光触媒はRhⅢをドープしたSrTiO3に限定されていたが、光触媒表面へのInHCF修飾がこの状況を打破することを見出した。代表的な可視光応答型光触媒のTaONは、水の還元とFe2+の酸化に適切なバンドレベルを有しながらも、既存の還元助触媒を担持してもほとんど活性を示さない。しかし、ここにInHCFナノ粒子を共担持することで水素生成活性が発現し、かつ高い水素生成速度が得られることを初めて実証した。さらに、TaONよりも長波長領域まで光吸収が可能な各種光触媒においても同様の結果が得られた。本水分解系における水素生成光触媒の選択肢を大幅に拡張できる戦略であるといえる。 (2)InHCFが示す可逆かつ安定な酸化還元挙動に着目し、このナノ粒子を固体レドックス電子伝達体として用いることを検討した。InHCFを担持した水素生成用光触媒と、酸素生成用光触媒とを、レドックスイオン対が存在しない水溶液に分散させ可視光を照射すると、両光触媒間の固体間電子伝達に基づくZスキーム型水分解が進行することを初めて見出した。
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