研究課題/領域番号 |
19J23468
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
神田 雄大 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ボルナ病ウイルス / ウイルスベクター / リバースジェネティクス |
研究実績の概要 |
(1)ボルナ病ウイルスのゲノムRNA、アンチゲノムRNAの3'末端には相補鎖の5'末端にテンプレートの無い配列(AACA-3')が伸長されることが報告されていた。我々は本年度の研究で、3'末端に伸長される配列が必ずしも一定の配列ではなく数塩基程度の多様性のある配列になっていること、3'末端に伸長される配列がウイルスRNAの転写複製効率に大きく影響すること、新たなRNAの複製では3'末端に伸長された配列は複製されず、常に一定の塩基から複製が開始されることを明らかにした。これらの現象はボルナ病ウイルスが不安定なRNA複製を繰り返すことでウイルスの過剰な増幅を制限し、長期の持続感染を可能にするためのメカニズムの一端を担っていると考えられた。 (2)ボルナ病ウイルスのリボヌクレオタンパク質複合体(vRNP)の核外輸送機構を明らかにするため、その機能が十分に解明されていないアクセサリータンパク質(X)に着目して実験を行った。Xを欠損させた組換えウイルス(ΔX-rBoDV)を作成し、感染細胞内におけるウイルスタンパク質の局在を確認したところ、vRNPを構成するヌクレオプロテイン(N)、ホスホプロテイン(P)が核内に限局的に局在していた。また、通常の細胞に感染したΔX-rBoDVは感染性のウイルス粒子を形成することができなかったが、X恒常発現細胞ではウイルス粒子の形成が可能であった。これらの結果からXがボルナ病ウイルスのvRNPの核外輸送機構、粒子形成に大きく関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの研究で、ボルナ病ウイルスのウイルスRNAの転写複製、粒子形成に関するメカニズムを明らかにしてきた。ボルナ病ウイルスの転写複製機構に関しては米国の研究チームとの共同研究も開始し、より強力に研究を推進する体制を整えた。 また、新たに得られた知見をボルナ病ウイルスベクター(REVec)の開発に応用し、REVecを安定的に生産する系を確立することができた。従来、REVecの新規合成には3カ月以上の時間を要していたが、新たに確立した系ではREVecを2週間程度で合成することが可能である。 上記の理由を以て、本研究課題の進捗はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ボルナ病ウイルスの転写複製のメカニズムに関して、これまでのin vivoの実験で得られた結果がウイルスのポリメラーゼ(L)に触媒された反応であることを証明するため、in vitroでのRNA合成実験を行う。また、得られた結果を論文発表する。 vRNPの核外輸送機構に関して、Xの有無によるウイルスRNAの局在や転写複製、さらに持続感染への影響を詳細に検討し、可能であれば論文発表を行う。 来年度は、若手研究者海外挑戦プログラムを利用して独国への留学を計画している。留学先では既存のボルナ病ウイルスとは特徴が異なるボルナ病ウイルス(BoDV-2)に関する研究を行い、ボルナ病ウイルスのウイルス学的な知見を深化させる予定である。そのため、当初の計画であった(2)REVecの改良と臨床応用を変更し、(1)ボルナ病ウイルスの感染・複製メカニズムの解明を中心に取り組む。また、(2)に関しても、(1)で得られた知見を応用し、REVecの改良を中心に進める。
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