研究実績の概要 |
本年度はまず、昨年度に採取したサンプルの生化学分析から着手し、脳出血後の中枢神経系における神経栄養因子の発現動態を検証した。その結果、脳出血後の神経栄養因子発現は領域特有の発現動態があり、損傷部位から離れた脊髄においても可塑的な変化が生じていることが明らかとなった。 次に、中枢神経系を賦活する薬理介入の妥当性の検証に着手した。当初用いる予定であったGABA受容体の非選択的阻害薬は、臨床応用を鑑みた際に、痙攣や不安惹起などの副作用の懸念が指摘されている。そこで、GABAの持続的抑制Tonic inhibitionを媒介するα5サブユニットを含むGABA受容体に着目し、その選択的阻害薬であるL-655,708を用いることとした。健常ラットを対象にL-655,708の効果検証を行ったところ、L-655,708投与後には大脳皮質における神経活動マーカーの遺伝子発現が増強し、中枢神経系を易興奮性修飾するための神経制御として有益な可能性を示唆する所見が得られた。 上記の結果を基に、脳出血モデル動物に対する介入実験を行った。脳出血後に介入を行わない群、脳出血後に運動介入を行う群、脳出血後に薬理介入を行う群、脳出血後に薬理介入と運動介入を併用する群に、偽手術のみを施す群を加えた5群を作成し、脳出血後3週間の介入を行った。行動評価の結果、薬理介入単独または運動介入単独では、介入前と比較し経時的な機能回復が促進されたものの、その機能回復効果は限定的であった。しかしながら、介入終了時の行動評価において、薬理介入と運動介入を併用した群のみ、介入を行わなかった群と比較し運動機能障害の有意な改善が認められた。これらの所見から、GABA受容体の特定のサブユニットを標的とする薬理的制御は、脳卒中リハビリテーションにおける機能回復効果を増強する可能性が示された。
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